ホウセンカ
「それって、どういう関係?」

 翔流が眉をひそめながら、オレを見上げてくる。
 明け方まで無我夢中で体を重ねて、ほとんど眠らずに帰ってきた日から10日。オレは学校帰りに、翔流がバイトをしているコンビニへ寄った。

 実は箱根に行った日の夕方は、翔流と会う約束をしていた。だから帰れなくなった事情を説明する流れでスミレのことを話したわけだが、面白がって根掘り葉掘り訊かれる羽目になる。

「セフレっていうんじゃないの、そういうの」
「さぁ」
「好きだって言っても言われてもないんだろー?つまり、カラダだけってやつじゃないですか。羨ましいぞー。年上のお姉さまと、ふしだらな関係なんて」

 こんな暑い中で、翔流は甘ったるいチョコレート飲料を飲んでいる。バイト終わりのこの一杯が至福らしいが、逆に喉が渇くんじゃないのか。
 
「惚れた腫れたとか、正直どうでもいいんだよな。人間の感情ほど当てにならないものはねぇし」
「高1の発言じゃないなそれ。人生何周目だよ。あ、待ってー。チャージしとくから」

 翔流が券売機でICカードにチャージするのを待って、新宿御苑前駅から地下鉄へ乗った。

 翔流が通っていたのは、オレの高校からほど近い場所にある偏差値70以上の公立高校。そしてバイト先は最寄り駅の新宿御苑前を出てすぐのコンビニで、オレが学校帰りによく飲み物を買っている店だ。

 6月下旬ぐらいだったか。レジで会計をしている時、突然翔流から年齢を尋ねられたのをきっかけに、妙に仲良くなった。オレが行く時には、いつも翔流がシフトに入っていたそうだ。

 夏休みになったが、オレは学校のアトリエで絵を描いてばかりいたし、翔流もバイト三昧。更にオレが帰る時間と翔流の上がり時間が何故かいつも被っていること、帰宅する方向まで同じだったこともあって、約束なんかしなくても毎日のように顔を合わせていた。これも縁なのだろう。

「にしても、いいよなぁ」

 座席に浅く腰かけて脚を伸ばしながら、翔流が言った。車内はかなり空いている。

「俺、まだなんだよ」
「なにが」
「初体験」
「あ、そ」
「せっかく夏休みに入ったのにさぁ。バイトばっかだしさぁ。彼女いないしさぁ。しかも何が悲しくて、野郎がひとり暮らしする家にお邪魔しなきゃいけないわけ~?あぁ~俺も年上のお姉さまにいろいろ教わりたいわぁ」

 当時のオレが住んでいたのは、本條さんが所有している白金のマンションだった。翔流の家は東麻布で、最寄り駅は隣。暇だからなのか、翔流は自分の家へ帰らずオレのマンションに入り浸ってばかりいる。

 ちなみにこの日も、うちに来たいと言い出したのは翔流の方だ。
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