ホウセンカ
「てかさぁ、そのスミレさんって人、大丈夫なの?大学生のお姉さまが幼気(いたいけ)な高校生を連れまわすってさ、なんか怪しくね?まぁ、桔平はいろんな意味で普通の高校生っぽくないけど」
「美術館巡りしてるだけだよ」
「別に桔平がいいならいいんだけど、ハッキリしない関係は後から面倒になるんじゃないの。好きなら好きで、ちゃんとお互いの気持ち確認して付き合うべきだろ。年上のスミレさんがそれをしないのは、なんか裏があるからって思っちゃうんだけど」

 翔流には、良い意味で物事を懐疑的に見るところがある。これに関しては正論だし、反論の余地もなかった。

 オレはスミレに好きだと言っていないし、言われてもいない。スミレのことを好きかと訊かれても、正直分からなかった。たまたま目の前の快楽に飛びついたと言われたら、そうなのかもしれないとすら感じてしまう。
 
「恋愛感情とか、よく分かんねぇよ」
「桔平ってさ、イケメンでモテそうなのに恋愛偏差値低いよな」
「モテるわけねぇだろ。誰も近寄ってこねぇのに」
「まぁ陰キャなコミュ障だもんなぁ。なのになんで俺より先に経験しちゃうわけよ~!ずるい~!家でじーっくり聞かせてもらうからな、魅惑の初体験について」

 性に興味があるのは、健全な証拠だと思う。翔流とはそういう話も気楽にしていたから、自分が普通の高校生であることを実感できた。

 ただ、あの夜のことは正直あまり覚えていない。スミレは妙に手馴れている様子だったから、経験が豊富なのかもしれないと思ったぐらいだ。あとは衝動に突き動かされているだけだった。

 翌日は何事もなかったかのように電車に乗って帰ったし、手を繋いだり腕を組んだりといった恋人のようなことは何もしていない。
 そして、それ以来スミレから連絡はなかった。おそらく、大学の定期試験があったからだろう。オレからも特にアクションは起こさなかった。

「なぁ、ピザ食いたくない?」

 家に着くなり、翔流が言った。こいつはいつもこうだ。マイペースすぎる。
 
「お前が食いたいだけだろ」
「頼んでよぉ~。金は半分出すからさぁ」
「なに当たり前のこと言ってんだ」
「俺、コーンのやつね。Lサイズ。あとフラポとティラミスもお願い」
 
 オレより明らかに食べるくせに、しっかり割り勘。ちゃっかりしているし、かなり図々しい。

 ただ、オレはどうもワガママな人間が好きらしい。自分が我を押し通せない性格だからだろうか。
 結局言われるがままスマホで注文して、30分ほどでピザが到着。ビール代わりのサイダーを飲みながら、再び箱根の夜へと記憶を引き戻した。
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