ホウセンカ
 でも楽しい時間は、本当にあっという間に過ぎてしまうもので。

 離れ難い思いを抱えながら帰路につくと、今日は家の前まで送らせてほしいって言われた。少しでも長く一緒にいたかったから、私は素直に頷いた。

 駅からマンションまで、なんでこんなに近いんだろう。もっとずっと道が続けばいいのにな。
 
「ここの501号室です」
「これで、いつ虫が出ても大丈夫だな。なんかあったら飛んでくるよ」

 嫌だな。まだ離れたくない。お茶をご馳走するぐらい、いいよね?でもいきなり部屋に上げるのは、やっぱりダメかな。
 
「……次」

 まごまごしていたら、桔平くんが口を開いた。

「オレはできるだけ早く会いたいんだけど。愛茉は、考える時間が必要?」

 桔平くんと付き合うかどうかを考える時間。本当は、そんなのいらないはずなんだけど。
 どうしたら、この不安がなくなるんだろう。時間を重ねれば自然に消えてくれるのかな。

「私は、桔平くんの予定に合わせるよ」

 結局当たり障りのない返事しかできない私を真っすぐ見つめて、桔平くんは微笑んだ。
 
「そっか」

 頼りない街頭の灯りに照らされる桔平くんは、ぞくりとするほど色気がある。でもなんだか、触れたら割れてしまうシャボン玉のような儚さも感じて。その笑顔がどこか寂しそうに見えるのは、夜の闇のせい?
 
「……あのさ。デート3回って言ったけど、別に今ここで断ってくれてもいいよ。愛茉の時間を、むやみに奪いたいわけじゃねぇからさ」

 えぐられるような痛みが胸に走る。
 ひどいことをしているのは分かっていた。試して、気を持たせて、先延ばしにして。

 でも私は、桔平くんにそんなことを言わせたいわけじゃない。本当は断る理由なんて、何ひとつないのに。

「……断るだけの、決定打はないから」
「でも、受け入れる決め手もない?」

 桔平くん自身には、何も問題なんてない。だから、そんな顔しないで。
 
「オレはさ、もっと知りたいから付き合いたいって思うんだよね。そこは愛茉と違うのかもしんねぇな」

 桔平くんは、視線を少し遠くに外しながら言った。
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