ホウセンカ
「でも、体キツくねぇの?無理はすんなよ」
「それは本当に大丈夫。私もお腹空いてきちゃったし、一人分も二人分も労力は変わらないから。食材見てから作るの決めるけど、食べれないものってある?」
「いや、大体何でも食えるよ」
「どんな料理が好きなの?」
「うーん……ペルー料理とか」
「……ペルー?」

 また予想外の答えが返ってきた。肉料理とか魚料理とか麺料理とか……そういう返しを求めていたんだけど。ペルー料理がどんなものなのかなんて、全然知らないし。
 
「前に行った時、すげぇ飯が美味かったんだよ」
「ペルー、行ったことあるんだ」
「中学の時から、年に1回はひとりで海外をフラフラしてるからさ」
「えっ、中学の時から海外ひとり旅?」
「うん、金貯めて放浪してる。ペルーに行ったのは一昨年の夏かな。最初にタヒチ経由でイースター島行って。それからチリに飛んでペルーをウロウロと」

 頭の中に世界地図を思い浮かべるけれど、タヒチとイースター島がどこにあるのか分からない。イースター島って、モアイがいるところ?チリとペルーは南米大陸だよね。

「英語とか喋れるの?」
「喋れるよ。あとフィンランド語とフランス語とスペイン語とイタリア語も。中国語とドイツ語は、まだ少ししか分かんねぇけど」

 バイリンガルどころじゃない、まさかのマルチリンガル。桔平くんって、実は俗に言うスパダリという人種なのでは?一体どういう頭のつくりになっているんだろう。ていうか、こういう人って本当に実在するのね……。

「つーか話逸れたな。飯は本当に何でもいいよ。愛茉が作ってくれるもんなら喜んで食うし。メニュー迷うなら、いくつか挙げて」
「うん。ちょっと待ってね」

 毎日外食していて、しかも世界中の美味しいものを食べている人に手料理を作るなんて、早まったこと言っちゃったかな。私、そんな凝ったものなんて作れないんだけど。
 うーん。とりあえず今ある材料でできるもので、失敗しないメニューは……。

「桔平くん、生姜焼きでいい?」
「いいね、食いたい」
「良かった。とりあえず、適当に寛いでて。テレビつけてもいいよ」

 私の言葉に笑顔で頷いて、桔平くんは大きく背伸びをした。

 よし、気合い入れて作らなきゃ。生姜焼きなら絶対に失敗しないし。あ、お米も炊いた方がいいかな。時間がないからフライパンで炊こう。あとはお味噌汁もいるよね。
 誰かにご飯を作るのは久しぶりで、私は少しウキウキしていた。
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