ホウセンカ
 ちらっと様子を見てみると、桔平くんはベッドに寄りかかって何かの画集っぽい本を読んでいた。じっと見入っているけれど、左手の指が膝の上でパタパタと動いている。まるでピアノを弾くみたいに。

 そういえば桔平くんって、ぼんやりしている時でも、よく指を動かしていた気がする。頭の中で音楽が流れているのかな。

 癖を見つけると、妙に嬉しい。私のことを知りたいって言ってくれるけど、私だって桔平くんのことをたくさん知りたいんだよ。

 例えば、私が作った料理を食べてどんな反応をするのか、とか……。あ、なんか少し緊張してきた。味は大丈夫かな。

「なに読んでるの?」

 できあがった料理を運びながら、桔平くんに声をかける。

「ホキ美術館コレクション」
「ホキ?」
「千葉にある写実絵画専門の美術館だよ」

 そう言って、中をパラパラと見せてくれた。
 え、絵画?どう見ても写真みたいなんだけど。本当に、これが絵なの?

「写真よりもリアリティを感じるだろ」
「うん、すごいね。細かいところまで見たくなっちゃう」
「貸しといてやろうか?」
「でもこれ、今日買ったんじゃないの?」
「別にいいよ。せっかくだし、ゆっくり見な。つーか飯できたんだろ?冷めないうちに食おうぜ」

 そうだった。ついつい画集に見入っちゃいそうだった。

 桔平くんが立ち上がって、お皿を運ぶのを手伝ってくれる。口だけじゃなくてこうやってすぐ動くところに、すごく優しさを感じるんだよね。
 
「盛り付け綺麗だな」
「そう?」
「うん、すげぇウマそう。いただきます」
 
 一応見た目も美味しく見えるように工夫しているから、そこを褒めてもらえるのは嬉しい。盛り付けなんかまったく気にせず、ガツガツ食べはじめる人もいるもんね。

 桔平くんは、まずお味噌汁から口にした。
 この前も思ったけれど、桔平くんはお箸の持ち方とか食べ方が綺麗。最初に汁物から口にするのは、和食の作法を知っているからなのかな。うちの親は食事のマナーに厳しかったのもあって、そういうところはつい気になってしまう。

 口に合うかドキドキしながら見つめていると、すぐに顔を綻ばせて「ウマい」って言ってくれた。
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