ホウセンカ
ひとりきりじゃないって思うだけで、すごく安心する。というより、やっぱり桔平くんがいてくれるのが嬉しくて。本を返して終わりにしようと思っていたのに、全然覚悟が決まっていなかった。
「こ、こ、コーヒーでいい?淹れるから」
「そんな状態で熱湯扱ったら火傷するぞ。それより、タオル貸してくんねぇ?」
そうだ。桔平くん、汗かいてるし雨に濡れてるんだった。
このままじゃ風邪ひいちゃうよね。シャワー浴びた方がいいんじゃないかな。でも桔平くんが着られるような服は持ってないし……シャワー浴びてもらっている間に、乾燥機で乾かす?
「シャワー浴びた方が……」
「大丈夫だよ。そこまでビショビショにはなってねぇから。ただ上着が濡れてるから、どっかに掛けさせて。薄いからすぐ乾くし」
言いながら、桔平くんが上着を脱ぐ。下には半袖のカットソーを着ていて、長くて引き締まった腕が露わになった。髪が濡れているせいか、いつも以上に艶っぽい。これでモテないわけがないんだよね。
いろんな女を知ってる。七海が言っていたことは本当だった。だからって、桔平くんを嫌いになんてなれない。遊んでいた過去があるとしても、これから私だけを見てくれるのなら、それでいい。
だけど私はきっと、何度も不安になって桔平くんを責めてしまう。その度に過去を蒸し返して、傷つける。そんなのは嫌なの。
「ドライヤー貸そうか?」
「いや、いいよ」
タオルを手渡すと、桔平くんはグシャグシャと乱暴に頭を拭いた。少し髪が伸びたように見える。
「足元、濡れてない?」
「大丈夫、これ撥水のやつだから」
カラフルなペイズリー柄のテーパードパンツは、確かにあまり濡れていなさそうだった。
そんな話をしている間にも雷の音が轟いていて、その度に体がビクッとして震えてしまう。
「滅多に落ちねぇから大丈夫だって」
私を安心させるように、優しく落ち着いた口調で桔平くんが言った。
「でも、雷に打たれて死んだ人もいるじゃない」
「落ちてきた隕石に当たるより確率低いんだぞ」
「そうなの?」
「100万分の1だったかな。家にいりゃ死なねぇよ。ちゃんと避雷針あるんだし」
「でも、怖いものは怖いんだもん」
子供の頃、家の近所に雷が落ちた。ものすごい轟音が鳴り響いて、家には誰もいないし、停電までするし。夜だったから真っ暗で、すごく怖くて心細かった。だから今でも、雷が怖い。どうしても体が震えてしまう。
また空が光る。桔平くんの横にしゃがみこんで、思わず耳を塞ぎながら身を固くした。
「これなら、怖くない?」
優しい声がすぐ耳元で聞こえて、バニラの甘い匂いが香る。桔平くんは私を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめてくれた。
「こ、こ、コーヒーでいい?淹れるから」
「そんな状態で熱湯扱ったら火傷するぞ。それより、タオル貸してくんねぇ?」
そうだ。桔平くん、汗かいてるし雨に濡れてるんだった。
このままじゃ風邪ひいちゃうよね。シャワー浴びた方がいいんじゃないかな。でも桔平くんが着られるような服は持ってないし……シャワー浴びてもらっている間に、乾燥機で乾かす?
「シャワー浴びた方が……」
「大丈夫だよ。そこまでビショビショにはなってねぇから。ただ上着が濡れてるから、どっかに掛けさせて。薄いからすぐ乾くし」
言いながら、桔平くんが上着を脱ぐ。下には半袖のカットソーを着ていて、長くて引き締まった腕が露わになった。髪が濡れているせいか、いつも以上に艶っぽい。これでモテないわけがないんだよね。
いろんな女を知ってる。七海が言っていたことは本当だった。だからって、桔平くんを嫌いになんてなれない。遊んでいた過去があるとしても、これから私だけを見てくれるのなら、それでいい。
だけど私はきっと、何度も不安になって桔平くんを責めてしまう。その度に過去を蒸し返して、傷つける。そんなのは嫌なの。
「ドライヤー貸そうか?」
「いや、いいよ」
タオルを手渡すと、桔平くんはグシャグシャと乱暴に頭を拭いた。少し髪が伸びたように見える。
「足元、濡れてない?」
「大丈夫、これ撥水のやつだから」
カラフルなペイズリー柄のテーパードパンツは、確かにあまり濡れていなさそうだった。
そんな話をしている間にも雷の音が轟いていて、その度に体がビクッとして震えてしまう。
「滅多に落ちねぇから大丈夫だって」
私を安心させるように、優しく落ち着いた口調で桔平くんが言った。
「でも、雷に打たれて死んだ人もいるじゃない」
「落ちてきた隕石に当たるより確率低いんだぞ」
「そうなの?」
「100万分の1だったかな。家にいりゃ死なねぇよ。ちゃんと避雷針あるんだし」
「でも、怖いものは怖いんだもん」
子供の頃、家の近所に雷が落ちた。ものすごい轟音が鳴り響いて、家には誰もいないし、停電までするし。夜だったから真っ暗で、すごく怖くて心細かった。だから今でも、雷が怖い。どうしても体が震えてしまう。
また空が光る。桔平くんの横にしゃがみこんで、思わず耳を塞ぎながら身を固くした。
「これなら、怖くない?」
優しい声がすぐ耳元で聞こえて、バニラの甘い匂いが香る。桔平くんは私を引き寄せて、ぎゅっと抱きしめてくれた。