ホウセンカ
「あ、私も行く」

 向かいに座っていた友人の七海も立ち上がる。
 あぁ……やっぱりなぁ。女子って、どうしてこうも連れだってトイレに行きたがるのかな。

 でもここで断ると余計に怪しいかもしれないし、とりあえず七海と一緒にトイレへ立つことにした。

「ちょっと、お腹痛くなってきちゃって」

 そう言って、私はとりあえず個室に入った。そして手鏡を取り出してメイクのチェックをしながら、抜け出す言い訳を考える。
 早くしなきゃ。10分過ぎちゃう。

 女相手に言うなら、やっぱりこれしかないかなぁ……。
 リップを塗り直し、意を決して個室を出る。そして、洗面台でメイクを直している七海に言った。

「生理きちゃった……」
「え、マジで。持ってないの?」

 いわゆる女子力が高い子なら、予定日に関係なく生理用品を持ち歩いている。でも七海は、そういうタイプじゃない。それは分かっていた。ちなみに、私はいつもポーチに入れている。
 
「うん、いつも持ってるんだけどね。今日は入れてなかったみたい。隣のコンビニで買ってこようかな……」
「行ってきてあげようか」
「ううん。せっかくの合コンなのに悪いよ。お腹痛いし、私このまま帰らせてもらおうかな。みんなには申し訳ないけど……」

 そもそも、この合コンをセッティングしたのは七海なわけだし。わざわざ人の生理用品を買いに行かせるなんてことは出来ない。嘘をついているわけだから、尚更。

「そっか……。いいよ、みんなには適当に言っておくから。ひとりで大丈夫?荷物持ってきてる?」
「うん、ありがとう。とりあえずコンビニ寄って、その後はタクシー拾うから大丈夫。七海は最後まで楽しんでって」

 我ながら、具合の悪い演技は上手い。七海の返しも、予想通り。大雑把な姉御肌タイプで、人の世話を焼きたがるんだもんね。ありがとう七海、ごめんね。
 七海に会費を渡して、私は急いで店を出た。

 ドキドキしているのは、うしろめたいからじゃない。もしかすると何かがはじまるかもしれない。少しだけ、そんな予感もしていたから。

「お、来た」

 浅尾さんは、コンビニの前で煙草を吸っていた。あ、この甘いバニラみたいな匂い。煙草の香りだったんだ。
 それにしても、絵になりすぎじゃない?煙草は嫌いだけど、不覚にもかっこいいって思っちゃった。
 
「……来るって思ってました?」
「半々ってとこ。来てくれたら嬉しいなとは思ってたから、10分が長く感じたな」

 やばい。キュンとしてしまった。
 それでも、エッチなことを期待しているのだとしたら、やっぱりちゃんと断らなくちゃね。会ったその日に、なんていうのはさすがに無理だもん。
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