ホウセンカ
「愛茉はコーヒーが好きなわけね」

 食後のコーヒーをゆっくり味わいながら、桔平くんが言った。
 家の近くにあるこのカフェにはよく来るらしくて、店員さんとも顔見知りみたい。彼女だって紹介してくれたのが、すごく嬉しかった。

「うん。好きだけど、ミルク入れないと無理。それかウインナーコーヒー」
「お子様じゃんか」
「だって、苦いもん」
「それコーヒー好きって言うのか?」

 笑いながらブラックコーヒーを口にする桔平くん。こういう何気ない会話が、一番楽しくて幸せを感じる。

 桔平くんは15時頃に学校へ行けばいいらしくて、私を送るために広尾駅まで一緒に来てくれた。上野までは、ものすごく遠回りなのに。

「ちょうど、森美術館に寄りたかったからさ」

 そう言っていたけれど、それはきっと後付けの理由。少しでも長く私と一緒にいたいってことだよね?

 袖を掴むんじゃなくて、しっかりと手を繋いで桔平くんの隣を歩いている。あぁなんかもう、宙に浮いてしまいそうなくらい浮かれた気分。
 
「あ、愛茉……と、もしかして浅尾さん!?」

 広尾駅を出ると、ちょうど七海とバッタリ会った。
 そっか。七海は髪を結んでいる桔平くんを見るの、初めてだよね。合コンの時とまるで印象が違うその姿に、驚いた表情をしている。

「七海ちゃんだっけ。久しぶり」
「私のこと、覚えててくれたんですか?」
「愛茉の話に、ちょいちょい名前出てくるからね」

 七海は私と桔平くんの顔を交互に見た後、視線を落とす。あ……手、繋いだままだった。
 
「えっと……もしかして2人って……?」
「ああ。付き合うことになったんで、よろしく」

 さらりと言う桔平くん。なんだか気恥ずかしくて、私は少し俯いてしまった。

「えー、やっぱり!良かったね浅尾さん!愛茉にずっと、おあずけ食らってたんでしょ?」

 え、そっち?まずは私に対して良かったね、じゃないの?まるで私が桔平くんを振り回していたみたいじゃない。……いや、振り回していたのかな。

「あぁ、そうね。すっげぇ、おあずけ状態だったね」
「この子、真面目すぎるから」
「そうだな。理屈っぽいしな」
「そうそう。いちいち細かいこと気にするし」
「……ちょっと、そこで意気投合しないでよ」

 本人の目の前で、自分でも気にしていることをズケズケと……。でもこういう性格の人じゃないと、私は楽に付き合っていけないんだろうな。直感的なところは、桔平くんと七海は似ているのかもしれない。
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