ホウセンカ
「だって、LINE送るかどうかでウジウジ考えてたじゃん。なんて送ったらいいか分からないーって」
「やっぱりなぁ。オレのこと警戒してそうだったから、愛茉の連絡先は訊かなかったんだけどさ。あんまり来ねぇなら、翔流経由でどうにかして連絡とろうと思ってたわ」

 え、そうだったんだ。桔平くんがちょっと必死になってくれていたのなら、すごく嬉しいんだけど。

「でも良かった。最近愛茉の口から浅尾さんの名前を聞かなくなったから、心配してて。ただ、愛茉を泣かせたらマジでしばくからね。特に浮気したら許さないんで」
「大丈夫だよ、絶対しねぇから」

 桔平くんがあまりにキッパリ言い切るから、七海は少し拍子抜けしているように見える。やっぱり七海も、結衣の話を気にしているんだろうな。

「あ、そろそろ行くわ。美術館に寄る時間なくなる。んじゃ愛茉をよろしくね、七海ちゃん」
「了解~」
「愛茉も、勉強頑張れよ」
「うん」

 桔平くんは私の頭をポンポンと叩いて、優しく笑う。
 そして大きめの画材バッグを抱えて去っていく後姿を眺めながら、七海がうっとりとした表情でため息をついた。

「……やば、今の顔。私に向けたものじゃないって分かってても射抜かれるわ。すごい格好だから、最初ビックリしたけど」
「いつもあんな感じだよ。合コンの時は、少しおとなしめだったよね」
「いや、合コンの時も十分派手だったじゃん。にしても浅尾さんって、あんな風に笑う人だったんだね。愛茉にベタ惚れって感じはするけど……心配にならない?浮気の前科があるわけだし」
「全然。昔のことだもん」

 割り切っているフリ。本当は、ずっと気になっている。浮気しそうって疑っているわけじゃない。ただ、私の知らない桔平くんがいることが怖いだけ。いつか私から心が離れてしまいそうな気がして。

 でも一緒にいると、不安な気持ちが影をひそめて“楽しい”の方が勝る。毎日ずっと傍にいられたらいいのにな。ひとりになるのが怖いよ。

「とりあえず、昨日から今日にかけて何がどうなってそうなったか、洗いざらい吐いてもらおうかな」

 七海がニヤニヤ笑いながら腕を組んでくる。学校で、事細かに事情聴取されたのは言うまでもない……。

 その週末は、車で買い出しへ行った。桔平くんの愛車は、いわゆるクラシックカー。私はメーカーとか型式とか分からないけれど、なんだかシックでかっこいい車だった。
 ただ桔平くんは歩く方が好きだから、車は何でもいいらしい。これは、お姉さんのご主人が譲ってくれたものなんだって。

 その車に、調理器具とか私の収納をたくさん積んで帰る。なんだか新婚みたいで、くすぐったかった。
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