ホウセンカ
 こんなこと、さすがに誰にも相談できない。七海は相談しても無駄というか……「可愛い下着で誘えばいいんだよ!」とか言いそうなんだもん。だから誘うのが無理なんだってば。

 世の中のカップルは、一体どうやってこういう問題を乗り越えているの?何もかもが初めてで、どうしたらいいのか分からない。

 でも一緒にはいたいから、夏休みに入った日から、バイト以外のほとんどの時間を桔平くんの家で過ごした。クローゼットには私の洋服や物が少しずつ増えている。それを眺めているだけで、すごく幸せ。

 そして9日。中目黒にあるスヌーピーのカフェで、七海たちが誕生日を祝ってくれた。

 東京に来て良い友達に恵まれて、かっこいい彼氏もできて。自分が求めていたこととは言え、上手くいきすぎで少し怖い気もする。
 幸せに慣れていないからなのかな。どこかに落とし穴があって、一気に地の底まで転落してしまうんじゃないかって思ってしまう。

「幸せなのが当然のことだと思わなきゃ、大丈夫じゃねぇの?」

 スヌーピーのぬいぐるみや小物をたくさん抱えて帰ってきて、桔平くんにチラっとそんな話をしたら、軽い調子で言われた。

「だって、勝って兜の緒を締めよって言うじゃない」
「何と戦ってんだよ」

 桔平くんは笑いながら、私が抱えているスヌーピーをベッドへ置いてくれた。

 自分の家じゃなくここへ帰ってきて、桔平くんも普通に受け入れてくれる。付き合い始めてすぐに合鍵を渡してくれたから、次第にそれが当たり前だと感じてしまうかもしれない。

 私が戦っているのは、きっと自分自身。
 桔平くんや周りの愛情を、当たり前として享受してしまいそうな自分。そして、それが突然消えてなくなってしまう不安を抱えている自分。

 だけど桔平くんと抱き合っている時だけは、ただの可愛い女の子でいられる気がするの。
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