ホウセンカ
「……私、桔平くんが思うような良い子じゃないよ」
「良い子だなんて、一切思ってねぇよ」

 桔平くんは、撮影が終わったスヌーピーのぬいぐるみを抱きながら仰向けに転がった。そしてスヌーピーの両手をパタパタと動かしている。

「愛茉は基本的に猫被ってるもんな。口にすることのほとんどが建前だし。まぁオレの前では、かなり素直になってきたっぽいけど」

 それは、桔平くんがあまりに真っ直ぐだからだよ。このグレーの瞳を見ていたら、ついつい本音が出てしまって。だんだんと自分を偽れなくなってきただけ。

「ちょうどいいんじゃねぇの?思ったことしか言えねぇオレとは、正反対でさ。オレを好きってことだけが本当だったら、あとは何でもいいよ」
「大好きだよ。それは絶対だもん」
「分かってるよ。そこを疑ったことはねぇし。だから愛茉は、そのままでいいわけ」

 スヌーピーを抱っこしたまま、桔平くんが言う。なんだろう。この組み合わせ、妙に可愛い。

 出会った時よりも、私に気を許してくれているんだよね。もともと自然体ではあったけれど、最近の桔平くんは素なんだろうなって感じることが多くて。

 だから私は、余計に試したくなる。本当に、私のことをずっと好きでいてくれるのかなって。
 
「でもみんな結局、良い子を好きになるんでしょ」
「みんなって誰だよ」
「雑誌とかネットに書いてある“理想の彼女”の条件に、私は全然当てはまってないんだよ。良い子じゃないし、心も狭いし」
「そんなの、男はみんな醤油ラーメンが好きですよって言ってるようなもんじゃん。んなわけねぇだろ。オレは塩が好きなのに」
「でも私、こんなに面倒くさい性格だよ?そのうち絶対、鬱陶しくなるでしょ」
「確かに、めんどくせぇよな」

 笑って言いながら、桔平くんが体を起こした。スヌーピーをベッドの端に置いて、その頭をポンポンと撫でる。
 
「すっげぇ可愛い。愛茉のそういうところ。可愛すぎて、たまに抑えるのがキツくなる」

 桔平くんに、後ろから優しく抱きすくめられた。

「雑誌に書いてあるようなテンプレ女を、オレが好きになると思ってんの?オレにとっての理想の彼女は、愛茉に決まってんじゃん。他の女なんて興味ねぇし、愛茉の面倒くささに、ずっと振り回されていたいんだよ」

 耳のすぐ近くで聞こえる声が、電流みたいに体を駆け巡った。
 どうしよう。桔平くんに、もっともっと触れてほしい。直接肌に触れたい。でも自分から言うなんて、やっぱり恥ずかしすぎる。
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