ホウセンカ
 このまま押し倒してくれないかな。抑えなくていい。桔平くんにだったら、強引にされたっていいのに。……絶対、しないだろうけど。

「桔平くん」
「んー?」
「あ、あの……」

 今がチャンスでしょ。抑えなくていいよって、その一言だけでいいはず。後ろ向きだし、顔を見なければ言える。
 言わなきゃ、言わなきゃ。

「……わ、私、絶対にまた同じこと言ってウジウジするよ?」

 また、思っているのと違う言葉が出た。やっぱり人は、そう簡単に変わらない。こんな時に素直に可愛く甘えるなんて、私には無理だった。

「また言うだろうなぁ」
「定期的にネガティブなこと言って、勝手に落ち込むよ?」
「想像できるわ」
「面倒でしょ?」
「うん。そこもすげぇ大好き。だから安心して、ネガティブなこと言いまくりなよ」

 頬にキスされる。顔を向けると、今度は唇に。バックハグからのキスとか、こんなシチュエーションはドラマとか漫画の中だけだと思っていた。

 桔平くんは、私に対してとことん甘い。そして私は、それを分かってて試すようなことばかり言ってしまう。肝心なことは口にできないくせに。

 でも定期的に試して自分を安心させたい。桔平くんもきっと、そんな私のずるさを見抜いている。それでも、これだけ甘やかしてくれるんだよね。

「桔平くんって、やっぱり変」
「今更だな」
「大好き」

 大きな体に体重を預けると、桔平くんが私を抱きしめる腕に力を込める。大好きって気持ちが溢れて仕方ない。

 小樽にいた頃の私は、いつもカラカラに乾いていた。こんな風に、誰かに真っ直ぐ愛されることを、ずっとずっと夢見ていた。だけど、いざそうなると不安ばかりが襲ってくる。
 本当に面倒な性格。それを好きって言ってくれる人は、桔平くんしかいないんだろうな。

 0時になったら、おめでとうって言ってくれて。今まで生きてきた中で、一番幸せな誕生日のはじまりだと思った。

 この部屋にいることも、このベッドで眠ることも、桔平くんが隣にいることも、少しずつ自然になってきている。でもそれが当たり前だと思ったらダメなんだよね。絶対絶対、大事にしなくちゃ。
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