ホウセンカ
「オレも浴びてくるわ」

 洗面所へ向かう桔平くんの背中を眺めながら、頭の中でシミュレーションした。今日こそは、ちゃんと言う。決めたんだもん。ベッドの端に座って、胸に手を当てながら何度も深呼吸する。

 桔平くんが戻ってきた。なんだかいつもよりも色っぽく見えて、ドキドキする。出会った時より髪が伸びた桔平くんは、ますますかっこよくなった。
 
「あ、忘れるところだった」

 私の顔を見て、桔平くんが呟いた。そしてクローゼットから何かを持ってくる。

「はい、誕生日プレゼント」
 
 横に座って、手にしている物を見せてくれた。シルバーチェーンの真ん中にピンクの石が小花のように配置されている、すごく可憐で可愛いネックレス。
 
「箱とか包装がなくてごめんね。自分で作ったもんだからさ、これ」
「え、桔平くんが作ったの?」
「材料買って、学校でちまちま作ってた」

 すごい。細かいところまで綺麗で、全然手作りに見えない。
 
「このチェーンってシルバー?」
「いや、プラチナ」
「え、本物?」
「そりゃそうだろ」

 プラチナって高いんじゃなかったっけ……。私が毎日身につけたいって言ったから、変色しにくい素材にしてくれたのかな。
 
「この石は?」
「ストロベリークォーツ。なんか愛茉っぽいなと思って」

 名前の通り、イチゴみたいな可愛い石。私をイメージして、私のためだけに作ってくれた、世界にひとつだけのネックレスなんだ。嬉しすぎて泣きそうになって、言葉が出てこない。私、ありがとうって言ったっけ?言ってなくない?

 首に手を回して、桔平くんがネックレスをつけてくれる。それから満足そうに笑った。

「やっぱり似合うな。色白だから、プラチナがよく馴染む」
「あ……ありがとう……」
 
 ベッドサイドに置いていた手鏡を取って、自分の姿を映す。桔平くんの言う通り、ネックレスは肌によく馴染んでいて、とっても上品に見えた。

 桔平くんは、こんな醜い人間に魔法をかけて、すごく可愛い女の子にしてくれるんだよね。桔平くんの隣にいたら、私は世界一可愛くなれるんじゃないかって思えてしまう。

「……あの、桔平くん」

 鏡を置いて、桔平くんに向き直る。

「私ね、今日は……か、覚悟を決めてるの」
「覚悟?」
「えっと……ぼ、ボーナスステージに進む覚悟」

 直接的な表現は無理だから、桔平くんの言葉を引用してみた。じっと顔を見つめられる。は、早くなんとか言って……。
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