ホウセンカ
 相変わらず見栄を張りたくなるしネガティブ思考に陥るし、肝心なことを伝えようとしたら感情ばかり先走って、すぐに泣いちゃう。本当に子供っぽくてワガママで、自分が男だったら絶対にこんな女は嫌だなって思うぐらい。

 それでも桔平くんが隣にいてくれるなら、自分を変えられるかもしれない。今までひとりでもがいてきたけれど、きっとこれ以上の幸せなんてない。そう思えるほど満たされていて、自分が何にでもなれるような気持ちだった。

 そんな幸せな誕生日の翌日。桔平くんは9月の大学祭で展示する絵を描くために学校へ行っちゃったから、一旦自分の家へ帰ることにした。バイトもあるし。

 あれ、ポストに不在票が入っている。配達は昨日で、差出人は姫野恭一……お父さんからだ。宅配ボックスに入っていた荷物を取り出して部屋に帰ってから開けてみると、中身はヒマワリのプリザーブドフラワーだった。メッセージカードには、デジタルの文字で“19歳おめでとう”の一言。忙しいお父さんらしい。

 一応LINEしておかなきゃ。仕事中だろうから、電話は出ないだろうし。

『とっても可愛いプリザーブドフラワーをありがとうございます。すごく嬉しいです。お父さんは、お仕事忙しいですか?ちゃんとご飯食べていますか?体に気をつけてね』

 なんだか、母親みたいな文面になっちゃった。でも子供の頃からお父さんの食事も作っていたから、私がいなくなってちゃんと食べているのか心配で。桔平くんと同じで料理ができない人だし、ちゃんとした彼女がいて、お世話してくれていたらいいんだけれど。

 両親がどうして離婚したのか、理由を聞いたことはない。でもきっと、お母さんが私のことを嫌いだったからだと思っている。お父さんが親権者になったのも、離婚してから一度も連絡して来ないのも、私が嫌いだから。

 自分のお腹を痛めて産んだ実の娘であっても、愛情を持てないことはある。私が他人の愛情に不安を抱くのは、そのせいなのかもしれない。本来であれば得られていたはずの、母親の無償の愛。それを感じたことがなかったから。

 ……そのせい、なんて言って親のせいにするのは、やっぱりずるいよね。私自身の心の問題だもん。自分で何とかしなくちゃ。

 でも桔平くんのおかげで、心の隙間は埋まってきたと思う。ずっとずっと満たされない想いを抱えていたけれど、最近はそれを感じることがなくなってきたから。
 電話が鳴った。お父さんからだ。

「もしもし、お父さん?」
「ああ、愛茉。変わりないか」

 久しぶりの、お父さんとの会話。普段は、LINEでたまに近況報告するだけだからね。
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