ホウセンカ
「月曜日?別にいいけど……オレがいて大丈夫なわけ?」

 その夜。バイトが終わって桔平くんとご飯を食べに行った時、お父さんと会う話をした。桔平くんにも同席してほしくて。
 
「うん。いきなり親と会うなんて、桔平くんは嫌かもしれないけど」
「全然嫌じゃねぇよ。ちゃんと挨拶はしときたいしさ。ただ、大事な話なんだろ?」
「お父さんには言ったから。彼氏も一緒にいていいかって。じゃないと、なんか……怖くて。だから、隣にいてほしいなって」

 どんな話なのかは分からない。でも桔平くんがいてくれたら、きっと落ち着けるから。甘えすぎかな。依存しすぎ?だけど私にとって桔平くんは精神安定剤なんだもん。
 
「分かった。んじゃ、控えめな服で行くわ」
「え、控えめ?」

 銀座の創作和食のお店でもいつものスタイルを貫いていた桔平くんが、控えめな服?ちょっとびっくりして、思わず目を丸くしてしまった。

「なんだよ。当たり前だろ?オレの印象が悪くて嫌な思いするのは、愛茉なんだからさ。オレは別に、どう思われたって気にしねぇけど」

 あ、そっか。そういうことか。話せば桔平くんの良さは分かるはずだけど、第一印象って大事だもんね。

 彼女の親に会うのにいつもの服装だったら、誠意を疑われる。お父さんは私と同じで、あまり融通が利かないというか、生真面目な人だし。「何だこの男は!?」みたいになったら、お父さんに心配かけちゃう。

「桔平くんのファッションって、ポリシーなんだと思ってた」
「そうだけどさ。愛茉より大事なポリシーなんてねぇよ」

 ああもう、大好き。桔平くんのこういうところ、本当に大好きすぎる。何かと面倒な私は、こうやって言葉と行動の両方で愛情を示してくれる人じゃないとダメなんだろうな。

「……ありがとう、嬉しい」 

 だから私も、ちゃんと伝えないといけない。嬉しい、楽しい、大好きって。そうしたら桔平くんが笑ってくれるから。私が世界一大好きな、優しい顔で。
 
「ほら、のびるぞ」
「うん」

 桔平くんに促されて、ラーメンをすする。
 やっぱり、ここの塩ラーメンが一番美味しい。桔平くんが、初めて会った日に連れてきてくれた赤暖簾のお店。たまに食べたくなって、デートついでに桔平くんと一緒に来ている。

「はぁ、美味しい」
「他にもウマいラーメン屋はあるのに、愛茉はここが好きだよな」
「思い出補正かも」
「それはありそうだな」

 もともとラーメンは大好物だから、桔平くんに連れられていろいろなお店を開拓しているんだけど。やっぱり思い出の味が一番。
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