ホウセンカ
 考えたら、あれからまだ3ヶ月なんだよね。このお店で、こうやって2人で笑い合っているなんて、全然想像していなかった。人生って、どこでどう変わるか本当に分からないな。

 あの時と同じ道を手を繋いで歩く。なんだか、くすぐったい気持ちになった。
 
「桔平くん、髪は切らないの?」

 多分、初めて会った時から1回も切っていない。美容室には行っていて、今はブルーやネイビーのハイライトが入っているけど。ちょっとクールな感じで、これもかっこいい。
 
「何となく伸ばしてたんだけど、短くしてほしい?」
「ううん。桔平くんの長い髪、好きだし。うちのお父さんも、大学生の頃は髪が長かったんだよ。写真で見たんだけどね」

 今は生真面目って感じのお父さんだけど、昔はロックバンドに憧れて伸ばしていたんだって。でもロングヘアのお父さんも、かっこよかった。
 
「愛茉のお父さんって、何歳?」
「44歳」
「若いな」
「うん。だから、良い人と再婚したらいいのになって」
「うちは父親が死んで2年で再婚したよ」

 苦笑しながら桔平くんが言う。
 
「あれ、そう言えば。桔平くんの苗字は“浅尾”のままなの?」
「ああ。母親の再婚相手と養子縁組してないからね。オレは父親の戸籍に入ったまま」
 
 戸籍のこととかは、よく分からないけど。そのままってできるんだ。でもお母さんが再婚したのって、多分小学校1年生ぐらいの時だよね。親と姓が別々だったってこと?

 何となくそれ以上は踏み込めなくて、その後は他愛ない話をしながら電車に乗った。

 そして家に来るかどうか確認することもなく、当たり前のように桔平くんの家に帰宅。汗だくだからシャワーへ直行。一応、別々でね。

 一緒の部屋にいても、ずっとくっつているわけではなくて。最近はお互い好きなことをする時間も多い。桔平くんは絵を描いたり本を読んだりピアノを弾いたり。私は七海と電話してファッション雑誌を眺めて、0時頃に何となくベッドに入る。

 桔平くんは遅くまで起きていることが多いけれど私は夜更かしが得意じゃないから、いつも先に寝ちゃうんだよね。

 でもそれは、この前までの話。
 ……今日は、しないのかな。そんな気配が一切ないんだけど。ていうか私も、コンタクト外しちゃったし。そもそも2回目以降って、どういうきっかけでするものなの?みんなどうやって“そういう雰囲気”に持ち込んでいるの?

 もしかして私とのエッチが良くなかったから2回目はいいや、なんて思って……ないよね。だとしたら、どうしよう。性の不一致は別れの原因にもなるんだよね。そういえば体の相性もあるって、七海が言ってた。桔平くんは気持ち良くなかったのかな。だとしたら、どうしよう。

 ああもう。やっぱり定期的にネガティブなことが浮かんできちゃう。
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