ホウセンカ
約束の時間は18時半。中野駅近くの個室居酒屋で待ち合わせ。最後に会ったのは引越しの時だから、5ヶ月ぶりかな。
お店に着くと、お父さんはまだ着いていなかった。まだ約束の10分間。時間に正確な人だから、急な仕事でもない限り遅れずに来てくれると思う。
桔平くんは、特にいつもと変わらない様子。やっぱり緊張はしない人なのかな。
「お連れ様がお見えです」
ノックの音の後に店員さんの声がして、引き戸が開いた。
「お父さん!」
久しぶりに見た、スーツ姿のお父さん。全然変わってない。やっぱりかっこいい。思わず立ち上がって駆け寄った。
「愛茉、随分と大人っぽくなったな」
「そ、そう?」
やった。大人っぽく見えたんだ。嬉しい。
お父さんは私の頭をポンポンと撫でた後、桔平くんに目を向ける。桔平くんも立ち上がっていて、お父さんの顔を見て頭を下げた。
「初めまして、浅尾桔平です」
いつもと同じ表情と声。それにしても、綺麗なお辞儀だな。桔平くんって口は悪いけど、所作はすごく品があるんだよね。
「え、えっと、彼氏の桔平くん……です。6月から付き合ってるの」
「愛茉の父の、姫野恭一です。いつも娘がお世話になっています」
お父さんも、深々と頭を下げる。桔平くんのこと、どう思ったかな。桔平くんはお父さんのこと、どう思っているのかな。なんだか私が一番緊張しているかもしれない。
「とりあえず座って、なにか頼もうよ。お腹すいてきちゃった」
ひとりでソワソワとしてしまう。
それぞれ椅子に座ると、桔平くんがメニューを取って、向かいに座るお父さんが見やすいように広げてくれた。
「桔平君……でいいのかな」
「はい」
「日本酒は飲める?」
「飲めます」
「じゃあ頼もうか。僕も飲むから」
お父さんと桔平くんが会話しているというだけで、なぜか嬉しくなる。仲良くなれるといいんだけど。
とりあえず、お刺身の盛り合わせやイカの炙りとかいろいろと頼んで、飲み物が来たら軽く乾杯した。ちなみに私は、オレンジジュース。早く2人と一緒に飲めるようになりたいな。
「桔平君は藝大生なんだって?日本画を専攻しているとか」
「そうですね。父が日本画家だったこともあって、子供の頃からずっと絵を描いていました」
「奨学生に選ばれるぐらい優秀だって、愛茉が自慢げに話していたよ」
「まぁ奨学生に選ばれるのは光栄なことですけど……僕の場合は、絵で認められないと意味がないので」
「僕って」
桔平くんの口から飛び出た聞き慣れない単語に、思わず吹き出してしまった。桔平くんは、苦笑しながら私に視線を向けてくる。
お店に着くと、お父さんはまだ着いていなかった。まだ約束の10分間。時間に正確な人だから、急な仕事でもない限り遅れずに来てくれると思う。
桔平くんは、特にいつもと変わらない様子。やっぱり緊張はしない人なのかな。
「お連れ様がお見えです」
ノックの音の後に店員さんの声がして、引き戸が開いた。
「お父さん!」
久しぶりに見た、スーツ姿のお父さん。全然変わってない。やっぱりかっこいい。思わず立ち上がって駆け寄った。
「愛茉、随分と大人っぽくなったな」
「そ、そう?」
やった。大人っぽく見えたんだ。嬉しい。
お父さんは私の頭をポンポンと撫でた後、桔平くんに目を向ける。桔平くんも立ち上がっていて、お父さんの顔を見て頭を下げた。
「初めまして、浅尾桔平です」
いつもと同じ表情と声。それにしても、綺麗なお辞儀だな。桔平くんって口は悪いけど、所作はすごく品があるんだよね。
「え、えっと、彼氏の桔平くん……です。6月から付き合ってるの」
「愛茉の父の、姫野恭一です。いつも娘がお世話になっています」
お父さんも、深々と頭を下げる。桔平くんのこと、どう思ったかな。桔平くんはお父さんのこと、どう思っているのかな。なんだか私が一番緊張しているかもしれない。
「とりあえず座って、なにか頼もうよ。お腹すいてきちゃった」
ひとりでソワソワとしてしまう。
それぞれ椅子に座ると、桔平くんがメニューを取って、向かいに座るお父さんが見やすいように広げてくれた。
「桔平君……でいいのかな」
「はい」
「日本酒は飲める?」
「飲めます」
「じゃあ頼もうか。僕も飲むから」
お父さんと桔平くんが会話しているというだけで、なぜか嬉しくなる。仲良くなれるといいんだけど。
とりあえず、お刺身の盛り合わせやイカの炙りとかいろいろと頼んで、飲み物が来たら軽く乾杯した。ちなみに私は、オレンジジュース。早く2人と一緒に飲めるようになりたいな。
「桔平君は藝大生なんだって?日本画を専攻しているとか」
「そうですね。父が日本画家だったこともあって、子供の頃からずっと絵を描いていました」
「奨学生に選ばれるぐらい優秀だって、愛茉が自慢げに話していたよ」
「まぁ奨学生に選ばれるのは光栄なことですけど……僕の場合は、絵で認められないと意味がないので」
「僕って」
桔平くんの口から飛び出た聞き慣れない単語に、思わず吹き出してしまった。桔平くんは、苦笑しながら私に視線を向けてくる。