ホウセンカ
「なんでそこで笑うんだよ」
「ごめん、慣れなさすぎるから。桔平くんらしくなくて」
「TPOはわきまえてるって言っただろ」

 私と桔平くんのやり取りを、お父さんが目を細めて見つめている。しまった。とっても素で会話しちゃったけど、大丈夫かな。

「桔平君。僕のことは“お父さん”って呼んでくれないかな。それと、普段通りに話そう。堅苦しいのは苦手なんだよ」

 ニコニコしながら、お父さんが言った。もしかして、なんか良い感触?

「オレも堅苦しいのは苦手です。蕁麻疹出そうになるんで」

 お父さんのグラスにお酒を注ぎながら桔平くんが言った。お父さんは、すごく嬉しそう。
 私がアレコレ気を揉まなくても、男同士で通じ合うものがあるのかもしれない。私には、よく分からないけれど。

 その後は、本当に和やかに会話が進んだ。というより、私ばっかり喋っちゃったけど。学校で教授に褒められたこととか、七海のこととか。お父さんと久しぶりに会えたのが嬉しくて、ついつい喋りすぎてしまって。

 でもやっぱり、お父さんと桔平くんは似ていると思った。私の話を、とっても優しい表情で聞いてくれるところ。あと私に甘いところも。

「……お父さんは、彼女いるんだよね」

 何となく会話が落ち着いたタイミングで訊いてみた。お父さんは、笑顔で頷く。

「いるよ」
「どのぐらい、付き合ってるの?」
「もうすぐ1年半かな」

 私に会わせるタイミングを、ずっと考えていたんだろうな。あんな状態じゃ、そりゃ会わせられなかったよね……。お父さんにも彼女にも、申し訳ないことをしてたな。

「よく行く取引先の人でね。歳は僕より4つ下かな。バツイチだけど、子供はいない」
「結婚の話とか、してるの?」
「いずれは……っていう話はしているけど、お互い2回目ともなると、やっぱり慎重になるからね。それに、愛茉の気持ちも聞いておきたかった」
 
 少しずつ、自分の鼓動が速くなってくるのを感じる。桔平くんが、私の様子を気にしてくれるのが分かった。

「この前、お母さんに会いたいかどうか訊いたね」
「……うん」
「やっぱり、今もよく分からないか?」

 膝の上に置いた拳を、ギュッと握りしめる。するとそこに、大きな手が重ねられた。桔平くんの方を見ると、私を落ち着かせるように穏やかな笑みを浮かべてくれる。それだけで、心が軽くなっていくのが分かった。

 ひとつ小さく息を吐いて、私はお父さんの顔をしっかりと見据えた。
 
「お……お母さんのことを考えると、苦しくなるの。お母さんは、私に会いたくないんじゃないかって思っちゃって……」

 自分がお母さんに会いたいのかどうか、正直分からない。ただひとつ言えるのは、怖いってこと。拒絶されるのが怖い。だから望まないようにしているのかもしれない。
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