【2025春・書籍化予定】溺甘純愛婚。 〜財閥社長とウブな令嬢のラグジュアリーな新婚生活。
藤乃家は、世間一般的に言われているやんごとなき一族と呼ばれる家で旧華族の末裔だ。
その藤乃家の当主をしているのは前当主の長男である父だ。本当なら、会社も社長だったはずだが染め物に魅せられ染織家の道に進んだらしい。旧華族の当主はしっかりする代わりに、という条件付きで。
まぁ、その話の流れだと私、藤乃藍梨は当主の娘であるわけで……本当ならばしっかりと令嬢として役目を果たさなくてはいけないのは分かっている。
「藍梨。無理に見合いなんてしなくたっていいんだよ、藍梨は染織の才能があるのだからここにいれば」
お父さんがそう言うと叔父さんは「兄さんは黙って」と言い、私を見た。
「藍梨ちゃんが、染織が好きなのも楽しそうにやってるのも俺は理解してるんだ。だけど、藤乃家令嬢だということも忘れないで」
そう叔父様は言って立ち上がった。
「答えは今すぐにとは言わない。よく考えて欲しい」
「分かりました。叔父様」
「うん。今度はうちにおいで。ご馳走用意して待ってるから」
「はいっ! ぜひ行きます!」
私の反応にクスッと笑うと叔父様は帰って行った。
いつもなら染織をしようと思うが、なんだかする気分にならずそのまま自室に向かった。