溺甘純愛婚。 〜財閥社長とウブな令嬢のラグジュアリーな新婚生活。
12.本命


 パーティーから数日、普通の日々が戻ってきた。


「藍梨さん、どうでした? パーティーと花火」

「えぇ、花火はとても綺麗でした……」


 本当に綺麗だった。花火を写真撮ろうとしたのに魅せられて撮ることを忘れてしまうくらいだった。


「そういえば、コンテストまでもう一ヶ月切っちゃいましたね、順調ですか?」

「うーん……まぁ、少しずつ」


 このコンテストというのは、私が毎年出している染織コンテストのこと。
 父も結婚前に同じコンテストで文部科学省賞を受賞したことがあるから、私も染織作家としては一度は取りたい賞の一つだ。

 現在私は、糸の先染めが終わり縦糸と横糸を織り合わせて作っている。素朴で落ち着いた風合いが特徴の生地の紬は、蚕の繭を原料にした糸を使用している。これは江戸時代に、それぞれの町や村にある養蚕農家で商品化できない繭糸を使って、仕事着や野良着として織られたことに始まり、世界一緻密な織物と呼ばれているものだ。


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