悠久の絃 2
皆忙しいのだろう。休憩室には誰もいない。

「で、どうしたの?」


「………いとは、僕と出逢わなかった方が、幸せだったのかもしれないです」

突然何を言い出したかと思ったが、悠先生も涙を流して目を強引に擦っている。


「なになに、本当にどうしちゃったの?」


すみません、すみませんと嗚咽混じりに謝っている悠先生は、とても小さい。


「一昨日、意識を飛ばす寸前で、絶対苦しいはずなのに、少しだけ微笑んだんです。もう、全部諦めたみたいな顔だったんです。前日から限界のサインを出していたのに、僕は何も言えなくて、言ったら売り言葉に買い言葉になっちゃいそうで、怖かったんです。なのに、自己抜去した時に体が固まっちゃって、気づいた時にはいとは廊下に出て走ってました。

僕は、、、僕はいとに何もすることができなくて、多分、目が覚めたときは、なんで生かされているんだろうって、いとは思うと思い」

「違うよ」


「それなら!僕は、どうすれば良かったんですか!?処置の時に腕も見ました!あんなの、身体だけじゃなくて、心も傷つけてるじゃないですか!」


「そうだね。俺もアザを見せられた時に同じことを思ったよ。真正面から見せられると目を背けられないからね。だからといって、出逢わなかった方が幸せだったなんて、それは医師としてどうなの?ほとんどあの時に死んでいれば良かったってことだよ?」


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