愛を教えて、キミ色に染めて【完】
Prologue
 いつの時代にも、どこの国にも富裕層(ふゆうそう)貧困層(ひんこんそう)というように、人々の暮らしには格差があり、貧困に苦しむ者たちによる犯罪が年々増加している。

 犯罪が起こる背景には必ず財力や権力を持つ者がいる訳だが、国の偉い人間が相手となると警察も介入する事が難しく、見て見ぬ振りをしなくてはならないのが現状だった。

 そんな中、警察幹部は『ある組織』の発足を提案し、その組織に警察が介入出来ない事件の当事者たちに制裁を加える役目を任せようと考えたのだ。

 そして幹部の思惑通り、組織介入によって少しずつ犯罪者を減らすことに成功しているが、そんな『組織』の人間たちは果たして、国の平和の為、一人、また一人手に掛けて罪を犯していく事をどう思っているのだろうか。

 国の為になるなら、いくら犯罪者を手にかけても気にならないのか、それとも――……



「た、助けてくれ! 頼む! どうか、命だけは……!!」

 高層マンションが建ち並び、田舎では決して見られる事の無いくらいに深夜でも明かりの灯る都会のとある某所のとある一室で、男二人が向かい合っていた。

 一人は黒縁の眼鏡を掛け、乱れた茶色の髪を何度も何度も床に付けては、向かい合う相手に『助けてくれ』と懇願(こんがん)している男。

 対するもう一人はフードを目深に被り、全身黒い服に身を包み、少し長めの前髪から時折覗く蒼い瞳をギラつかせながら土下座する男の前に立ちはだかっている男。よく見るとその手には拳銃が握られていた。

「お前、散々悪どい事をして多くの命を他人に依頼して奪った挙句、自分が殺されそうになったら命乞(いのちご)いか? 情けねぇなぁ」
「違う! 俺は(だま)されたんだ! 全て指示されただけなんだよ!」
「お前らみたいなのは、みんなそう言うんだよなぁ。騙されたからって、人殺して良いわけ? だから俺の事は見逃してくれ? 人の命奪っておいて、それはちと都合良すぎじゃねぇのか?」

 状況を見る限り銃口(じゅうこう)を向けられている男は、どうやら何者かに犯罪の片棒を(かつ)がされたらしく、ひたすら許しを()うも、銃を持った男は聞く耳を持たず相手に同情するどころか鼻で笑っていた。

「何でもする! 金もやる! だから、命だけは助けてくれ! 見逃してくれ……」
「金なんかいらねぇよ、何でもするって言うならさぁ――」

 なおも頼み込んでくる男を前に銃を持った男は口元に(うっす)ら笑みを浮かべると、言葉を口にしながら一歩、また一歩距離を詰めていき、真正面から頭に銃口を押しつける。

「ま、待ってくれ! 頼む!!」
「――お前のせいで死んだ人たちに()びなよ、あの世でな」

 必死の懇願も虚しく、銃を持っていた男が迷うことなく引き金を引いたことで銃口を突きつけられた男は、パンッという小さい音と共に力なく床に倒れていった。
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