愛を教えて、キミ色に染めて【完】
「忠臣さんや雷には、雪城の姓を名乗るつもりなら、HUNTERから足を洗うよう言われたよ」
「え……そんな、どうしてですか?」
「どうしてって、お前……そりゃそうなるだろ? 雪城の名を名乗る人間が殺し屋だなんて知られれば大問題だ。仕事にだって影響が出るだろ? そうならない為にも、抜けるしかねぇんだよ」
「…………でも伊織さんは、これからもHUNTERとして生きていきたいんですよね?」
「……そりゃ、本音を言えばな。けど俺にとって一番大切なのは、円香……お前と居ることだ。その為なら俺は…………HUNTERを抜けるのも、仕方の無い事だと思ってる」

 先程忠臣たちと話をした時や一人で考えている時にはHUNTERを抜けるなんて有り得ないと思っていた伊織だが、やはり円香に会い彼女と一緒に居ると、一番大切な事はこれから先も円香の笑顔を守り幸せな未来を築く事なのだと実感した。

「……私、雪城の事で伊織さんを悩ませる事になるなんて考えてもみなくて……浅はかだったって思いました。本当にごめんなさい……」
「そんなの、お前が謝る事じゃねぇよ。誰が悪いわけじゃねぇ。寧ろこれは、俺自身けじめをつけなきゃいけない問題なんだよ。考えてもみろよ? 仮にお前が名家の娘じゃなかったとしても、結婚したらきっと子供だって生まれる。そうなった時、結局俺は悩んだと思う。HUNTERを続けていくって事は、子供にまで過酷な運命を背負わせる事になるかもしれねぇんだ。それは流石にさ……。俺の考え方が浅はかだったんだ」
「伊織さん……」

 そう円香に胸の内を話した伊織は、全てを決意した。

 ――HUNTERを抜けて、一からやり直そうと。

 そして円香は彼のその表情を見て確信した。HUNTERを抜ける決断を下したのだと。

「円香、俺……決めたよ。俺はHUNTERを――」

 伊織が円香にHUNTERを抜けると決めた事を伝えようとしたその口を自身の唇で塞ぎ、二人は短いキスをする。

「駄目です伊織さん。私は貴方にHUNTERを続けて欲しい。私の為に、全てを捨てるなんて……言わないで」

 涙を浮かべた円香が、悲しげな表情で伊織にそう訴え掛けた。
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