愛を教えて、キミ色に染めて【完】
(どっちにしても、コイツの素性がハッキリしねぇ以上野放しにも出来ねぇし、消すにしても関係ねぇ人間ならそうもいかない……となれば、上手く言いくるめて使うしかねぇ、よな)

 そして、寝室の入り口前に立つ円香に詰め寄った伊織は――

「アンタさ、本当に悪いと思ってる訳?」

 そう言いながら扉を背にした彼女を追い詰めて問いかけた。

「も、勿論です! まさかその……人前で、吐いてしまうなんて……思ってもみなくて……」

 伊織が迫って来た事で距離が近いのが恥ずかしいのと、人様に迷惑をかけてしまったという申し訳なさでいっぱいの円香は消え入りそうな声で返す。

 そんな円香に更に顔を近づけると、ドアに手を付いて彼女の動きを封じた伊織は、

「しかもアンタ、さっきの電話に聞き耳立ててたろ? あれ、聞かれちゃまずい話だったんだぜ? 運が悪いな、アンタ。とにかくさ、謝ったからって『はい、さよなら』って帰す訳にはいかねーの。意味、分かる?」

 意地の悪い笑みを浮かべながら円香を脅しにかかった。

「そ、それじゃあ、私、どうすれば……」

 脅されている事と電話の内容から察するに、何か重要な秘密を知ってしまったと気付いた円香は命の危険を感じて全身が震えてしまい、立っているのがやっとの状態だ。

「そうだな、どうするかな」
「あ……あの、私、先程の話、誰にも言いません……」
「それを信じろって?」
「…………っ」

 どうすればいいのか分からず、ついに泣き出しそうになった円香の瞳からは、大粒の涙が溢れている。

(これが演技だったら正直めちゃくちゃ怖ぇけど、念には念を入れて、怪しい奴はHUNTER側(こっち)で囲っておかねーとな)

 女の泣き顔を前にしても冷静さを忘れずに考えを纏めた伊織は恐怖で怯える円香にこう言った。

「じゃあさ――俺の女になれよ」と。

「……え?」
「聞こえなかった? 俺の女になれって言ったの」
「そ、それは……私が、伏見さんとお付き合いするって、事ですか?」
「まあ、そうなるわな」

 突然の事態に驚きを隠せない円香。

 伊織が一体どういうつもりなのかが分からないのと、出逢ったばかりで良く知りもしない相手と付き合う事が自分に出来るのか、恋愛経験のない円香はどうすればいいか分からずにいた。
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