愛を教えて、キミ色に染めて【完】
「あ、す、すみません!」

 こんなに近過ぎるのは恥ずかしい円香が謝りながら少し離れようとしたものの、

「円香――」

 伊織の腕が彼女の肩に回され、

「んんっ」

 不意打ちで唇を塞がれた円香は伊織のペースに飲まれていく。

 初めてキスしたあの日から実にひと月程が経過している事、経験したと言ってもまだ慣れきっていない円香のキスはぎこちないものの、それでも伊織に応えようと必死に彼のペースについていく。

「……ん、は……ぁ、……っ」

 何度も繰り返される口付けの合間に息継ぎをする円香の表情は徐々に(とろ)けていき、熱っぽい瞳と上昇する体温、そして息継ぎと共に漏れる嬌声は伊織の心を掻き立てるには十分だった。

「その表情(かお)、誘ってんの?」
「え……、そ、そんな、こと……」
「違うのか、それじゃあもう止めるか」
「あ……や、やめないで……っ」
「ふーん? つまり、円香はもっとしたい訳だ?」
「違っ……あ、その……違わない……けど……」
「どっちだよ」
「……もっと、して……欲しいです……」
「よく出来ました――」

 時折こうして円香の反応を見て楽しむ伊織は再び彼女の唇に自分の唇を重ねると、

「――いおり、さん……っは、……ぁ」

 今度は指先で彼女の柔らかな耳朶を軽く撫で、その感覚がむず痒くて声を漏らす円香の唇を舌先でこじ開けると、より深いキスを要求していく。

(な、に……? これもキス……なの?)

 初めての感覚に戸惑う円香だったけれど、キスと同時に彼の指先によって様々な所を刺激されているうちに何も考えられなくなっていた。

 息は上がり、二人の感情は昂っていく。

 当初はキスだけで済まそうと思っていた伊織だったのだが、まだ物足りないと円香の着ていたブラウスのボタンに指を掛けた、その瞬間――ピンポーンという電子音が室内に鳴り響いた。
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