愛を教えて、キミ色に染めて【完】
「んッ……は、あ……ッ、あの、いおり……さん」
「何だよ?」
「誰か……来た、みたいですけど……」
「ほっとけよ。どうせ勧誘だろ」
「で、でも……」

 時刻は十九時半、来客予定は無いので、どうせ勧誘か何かだと言って対応する気が無い伊織。

 そんな事よりも、彼にとって今は相手が誰かよりも行為を中断させられた事に納得がいかず、

「円香――」

 名前を呼び、もう一度円香に触れようと手を伸ばしたものの、再びピンポーンと二度目のインターホンが鳴り響いた事に苛立った伊織は不機嫌そうな表情を浮かべて玄関へと向かって行く。

 そして、

「しつけーんだよ!」

 そう声を上げながら勢いよくドアを開けた先には、

「何だよ、そんなに怒る事ないじゃんかよ」

 伊織の勢いに圧倒された雷斗の姿があった。

「雷……何で」
「電話の後で忠臣さんから頼まれた物があってさ、近くに用事もあったから、ついでに届けに来たんだよ」
「そりゃどーも」
「つーか、もしかして今、例の子来てんの?」
「……ああ、まあな」
「そうか、それは悪い時に来ちまったな」
「そう思うならさっさと帰れよ」
「まあ、そうしたいけど――やっぱどんな子が見ておかなきゃさぁ。って事でお邪魔します」
「あ、おい雷テメェ!」

 玄関先で数分やり取りをした後、隙をついた雷斗は円香見たさから強引に中と入って行く。

「おい待てって!」

 そんな彼の後を追い掛ける伊織だが間に合わず、

「初めまして~」
「えっと……はい、初めまして……」

 突然上がってきた来訪者に戸惑う円香だったが相手につられて挨拶を口にした。

「あの、伊織さんのお友達……ですか?」
「ん~まあ、友達っていうか……なんて言うか……」
「コイツは早瀬 雷斗。便利屋のメンバーだ」
「ああ、便利屋さんなんですね! 私、雪城 円香と申します」

 伊織に雷斗を紹介された円香は彼と同じ便利屋の人間と知って納得すると、深々と頭を下げながら自身の名前を名乗った。

「ご丁寧にどうも。よろしくね、円香ちゃん」
「は、はい、こちらこそ、よろしくお願いします」

 雷斗が握手を求めて手を差し出してくると、それに圧倒されつつも応じた円香。

 そんな二人のやり取りを黙って眺めている伊織の目付きは実に冷たいものだった。
< 24 / 108 >

この作品をシェア

pagetop