愛を教えて、キミ色に染めて【完】
「――伊織さん?」
「…………」

 すぐ隣に座っていた円香を自分の方へ引き寄せた伊織は彼女を腕の中に収め、無言でギュッと抱きしめる。

「な、何か……ありました?」
「何でもねぇよ。ただ、少しだけ、こうさせろよ」
「は、はい……」

 突然の事に驚いた円香が声を掛けるも何でもないと言われ、それ以上聞けなくなってしまう。

(情けねぇな、俺。何なんだろ、円香と居ると、どうにも調子狂う……)

 無言の時が流れる中、伊織は自分の行動に戸惑いながら未だ動けずにいた。

 不思議な事に、円香と居ると伊織は自分が任務の為に人を手に掛けている事を忘れられていた。

 けれど、先程の映画で残虐なシーンを観た瞬間、これまで自分が行ってきた行為が一気にフラッシュバックしたのだ。

 それと同時に、このまま自分と居ると円香にも危険が及ぶのではないかという不安が芽生えていた。

 駒として使う為に付き合い始めただけのつもりだったけれど、恐らく伊織は円香をそんな風に使う事はしないだろう。

 彼はもう気付いているのだ。

 円香は、これまで出逢ったどの女とも違う特別な存在だという事に。

「円香」
「は、はい」
「お前が欲しい」
「!」
「今日はあんまし優しく出来ねぇかもしれねぇけど……いいか?」
「…………」

 突然の台詞に一瞬戸惑いを見せた円香だったけれど、どこか不安そうな彼の表情が気になった事、そんな中でも自分を求めてくれた事が嬉しくてコクリと頷き、

「――伊織さんの、好きにしてください」

 覚悟を決めて、そう口にした。

「――ッん、は……ぁッ、いおり、さん……」

 場所をベッドへと移した二人は、軽いキスから始まり、すぐに重なり合う。

 円香が心配していたルームウェアも下着も全て脱がされ、床に散乱している。

 初めての時は優しく触れられ、撫でられた身体。

 今日は伊織の余裕が無いから少し乱暴な感じがしていたけれど、それでも円香は幸せを感じていた。

 少し乱暴なキスも、愛撫も、言葉も、好きな相手だからこそ、許せてしまう気がしていたのだ。

 何度もキスをされ、深い部分まで繋がった二人。

 まだ慣れ切っていない円香の身体は既に限界を迎えつつあったのだけど、伊織はまだ満足出来ていないようで、円香を後ろから抱きしめ、再び彼女の身体の良い部分を執拗に攻め始めた。

「……あッ、ダメ……、もう、ほんと、にッ……」

 まるで自身の爪痕を残すように、何度も何度も繰り返す伊織。

 何度も昇りつめては焦らされ、再び与えられ快楽。

 円香が吐息を漏らす度に伊織の身体はゾクリと反応して、更なる快楽を得たいが為に激しく攻めていく。
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