愛を教えて、キミ色に染めて【完】
 初めこそ幸せを感じていた円香だったけれど、何故だか急に不安が押し寄せてくる。

「いおり、さ――」
「何も言うな。何も考えなくていいから、俺だけを感じてろよ」

 不安に耐え切れず口を開いた円香だったが、それを悟ったのか、伊織は彼女の唇を塞いでしまう。

 何故こんなにも不安に襲われたのか、伊織が何を考えているのか円香には分からず、考えようとしたものの再び激しく与えられる刺激と快楽に頭はボーッとしてしまい、いつの間にか意識を手放していた。


「……ん、」

 カーテンの隙間から差し込む陽の光の眩しさで目を覚ました円香。

 起き上がろうとするも、後ろから伊織に抱きしめられた状態である事に気付き、彼はまだ眠っているので動くに動けない円香は諦めて再び目を閉じる。

 すると、今度は伊織が目を覚ましたのか、円香から腕を離そうとしていた。

「伊織さん」
「悪ぃ、起こしたか?」
「いえ、たった今目を覚ましたところです」
「そうか」

 もぞもぞと身体を動かした円香は伊織の方に向き直り、彼と向かい合う。

「……身体、辛くねぇか?」
「はい、大丈夫です」
「悪かったな、乱暴にしちまって」
「いえ……その、大丈夫です」

 昨夜の事を思い出した二人の間には若干気まずい空気が流れている。

「伊織さん」
「何だよ」
「……何処にも、いかないですよね?」
「は?」
「これからも、私、伊織さんの彼女で、いいんですよね?」
「何言ってんだよ、急に」
「……ちょっと、変な夢見ちゃって、不安になったから……」
「阿呆かよ。夢は夢だろ」
「そう、ですよね」

 本当は夢なんかじゃなくて、傍に居るのに感じてしまう不安から聞いたのだけど、その事には触れなかった。

 言葉の代わりに伊織の胸に顔を埋め、彼の温もりを感じて心を落ち着ける。

 そんな円香をギュッと抱き締めたい衝動に駆られた伊織だけど、それをする事が出来ずに拳を握る。

 一緒に過ごし、身体を重ねる毎に掻き乱される自身の心。

 見て見ぬふりをしていたけど、自分が円香に惹かれている事にも気づいていた。

 けれど、本気になったところで意味なんて無いと理解っている伊織は、これ以上のめり込まないよう距離を取ろうと密かに考えていたのだった。
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