愛を教えて、キミ色に染めて【完】
「――次の依頼だが、これはとある詐欺グループのボスがターゲットなんだが、そいつはなかなか尻尾を出さない。そこでまずは下っ端の動向を探り、そこから徐々に近付くしかなくてな、長期の仕事になりそうだ」

 シャワーを浴びて着替えを終えた伊織が戻ると、すぐに次の依頼の打ち合わせが始まった。

 今回の依頼は長期に渡る案件な上に一筋縄ではいかないものらしく、忠臣は眉間に(しわ)を寄せ、難しい表情を浮かべている。

「ま、過去にも長期戦になった事あるし、問題ないっすよ」
「そうだな。ただ、その間にも簡単な依頼は舞い込むだろうから忙しくなるぞ」
「本当、嫌な世の中だな。それだけ犯罪者が多いって事だろ?」
「だな。法律が変わらねぇ限り犯罪者は増えるばかり。警察もお偉いさんの顔色窺ってばっかで役にたたねぇし。俺らみたいな組織がもっと増えねぇとやってられねーぜ」

 依頼書を確認しながら口々に文句を垂れる伊織と雷斗。

 年々犯罪が増え続けている現状に不満を持つのは当然の事だが、治安を守る為に動いているのに世間からその存在を知られる事もなく、ひっそり任務を遂行するだけの当事者たちからすれば文句の一つも言いたくなるだろう。

 忠臣率いる組織【HUNTER(ハンター)】はあくまでも裏社会での呼び名。

 普段は便利屋【utility(ユーティリティ)】として看板を掲げ、受けられる範囲内で緩く仕事を請け負い、【HUNTER】の仕事と並行して作業をこなしている。

「ひとまず、俺が一人で探り入れますよ。まずは下っ端から。コイツとか探りやすそうだし」

 資料に目を通し終えた伊織はとある男のプロフィール表を指差しながら言う。

「会社員、職場は……ほう、この会社なら上層部にかけ合えば短期社員として潜り込めそうだな。よし、それじゃあこの件は伊織中心で進めていこう。頼むぞ、伊織」
「了解」


 かくして新たな任務遂行の為に動く事となった伊織だが、ここから運命が大きく変わる事になるなんてこの時はまだ知る由もなかった。
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