愛を教えて、キミ色に染めて【完】
「お前の両親、そんなに厳しいのか?」
「そうですね、両親は昔から過保護で……普段は優しいんですけど、異性の事には特別厳しくて、そのせいもあって私は幼稚園から大学まで全て女子校なんです。だから、あの合コンで異性と話したのが、私にとって異性との交流デビュー……みたいな感じなんです」
「すげぇ徹底ぶりだな、お前の親は」
「すみません……」
「何で謝んだよ?」
「面倒ですよね、両親が過保護なんて……」
「別に面倒とか思わねぇけど、俺らの事がバレるのは時間の問題かもしれねぇな」

 伊織がそう思うのも無理は無い。

 円香は雪城家の一人娘で両親からすれば大切な存在だ。

 そんな大切な娘に男の影があると分かれば、恐らくどんな手段を使っても相手を調べ上げるだろう。

 とは言え伊織の素性を完璧に調べ上げる事は表社会で生きる人間には不可能だ。組織の事がバレないように、情報が操作されているから。

「……私、両親に伊織さんとの事を、話そうかなって思うんです」
「それ、話して納得してもらえるのか?」
「どうでしょう……。でも、いずれは話さないといけないですし……」
「まあ待て。焦って話して反対されたらその方が面倒だ。もう暫く様子を見よう」
「で、でも……」
「まあ、反対されたとしても俺はお前と別れる気なんてねぇけどな」
「伊織さん……」

 伊織のその言葉に嬉しさが込み上げた円香は、

「分かりました、淋しいけど、怪しまれないようにもう暫くは今のままで我慢します……ですから今だけ、帰るまで、ギュッてしてください……」

 伊織の提案に納得しつつも淋しさが拭えない円香は、隣に座っていた彼に抱き締めて欲しいとお願いする。

「ああ、いいぜ。来いよ」

 そんな彼女の可愛らしいお願いを聞いた伊織が自身の膝上に座るよう手招きをすると、円香は少しだけ恥ずかしがりつつもそこへ腰を下ろす。

「これでいいか?」
「……はい」

 後ろから包み込むように優しく円香の身体を抱き締めた伊織は、この穏やかで束の間の幸せを噛み締めつつ、密かにこれからの事を考えていた。


 円香を自宅近くまで送った伊織がマンションへ戻る途中、忠臣から招集がかかり事務所へと足を運ぶ。

「伊織、急に悪いな」
「いえ、問題ないっす」
「とりあえず座ってくれ」
「はい」

 居住スペースのリビングで話をする事になり、雷斗の座るソファーの横に腰掛ける伊織。

「実はな、ようやく詐欺グループのボスが誰だか分かったんだ」
「マジっすか?」
「ああ、警察の方で尻尾を掴んだんだ」
「それじゃあ、後は実行するだけって事ですね」
「意外と早く片付きそうで良かったな」

 忠臣の言葉に喜ぶ伊織と雷斗。

 しかし、忠臣の表情はどこか浮かない様子だった。
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