愛を教えて、キミ色に染めて【完】
「どうしたんですか? そんな浮かない顔して」
「実はな、厄介な相手なんだよ、そいつは」
忠臣が『厄介』と言った相手は、国民であれば誰もが知っている政治家の一人で、近年圧倒的な支持を得ている善人面、榊原 義己 という男だった。
「ああ、あのいけ好かない感じのオッサンか」
「分かる分かる。なんか胡散臭い感じしてたよな」
国民の支持を得ているものの、榊原には伊織や雷斗のような印象を持つ者も少なくない。
国民の為と色々意見したり、改革しようと活動しているものの、それはあくまでも犯罪を隠す為のカモフラージュ。
実際は詐欺グループのまとめ役や人身売買の元締めなど、金と地位を守る為なら何でもやるような極悪党だった。
「大物政治家が相手となると、これまで以上に警察は動けない。俺らも慎重に動かなけりゃならない。分かるな?」
「はい」
「伊織、企業での潜入捜査はもう終わりだ。黒幕が分かった以上、これ以上下っ端を探っても無意味だ」
「分かりました」
「雷斗は引き続き情報収集を頼む。榊原の人間関係、屋敷内部、行動パターン、余すこと無く全てを調べ上げて欲しい」
「了解です」
「それじゃあ、引き続き頼む。――と、伊織、少し話がある。いいか?」
「はい」
「それじゃあ、俺は部屋に戻りますね」
忠臣が伊織に話があると言うので、雷斗は早々に部屋へと戻って行く。
残された伊織と向かい合う形で座る忠臣は、何かを考えた後に話始めた。
「伊織、お前は近頃女と一緒に居るようだが……それはあくまでも、任務の為、なのか?」
「……それは……」
「まあ、その様子だと違うんだな。別にお前の交際に口出しする気はない。いい大人だしな。けどな、俺たちは組織の人間だ。それは分かってるよな?」
「勿論」
「守る者が居ると人は強くなれる。だが、時にその存在は足枷になる場合もある。相手に危険が及んだ時、任務を遂行する為には、どんなに大切な者でも見捨てなきゃならない場合もある。その覚悟が、お前には持てるか?」
「…………」
「俺たちは、組織として任務を遂行する。それだけの為に生きる、そう決めたはずだ。遊び程度の恋愛なら口出しはしない。ただな、これ以上深入りする前に、今の彼女と別れた方が……その方が互いの為だと俺は思う。話はそれだけだ」
忠臣は一方的に話を終えると自室へ戻っていってしまい、その背中を見送った伊織は事務所を出て車に乗り込んだ。
忠臣の言葉が、伊織の頭の中を駆け巡る。
「…………やっぱり、そろそろ潮時なのかもしれねぇな」
大切な存在である円香の事を思いながらそう呟いた伊織は、車を走らせマンションへと帰って行った。
「実はな、厄介な相手なんだよ、そいつは」
忠臣が『厄介』と言った相手は、国民であれば誰もが知っている政治家の一人で、近年圧倒的な支持を得ている善人面、榊原 義己 という男だった。
「ああ、あのいけ好かない感じのオッサンか」
「分かる分かる。なんか胡散臭い感じしてたよな」
国民の支持を得ているものの、榊原には伊織や雷斗のような印象を持つ者も少なくない。
国民の為と色々意見したり、改革しようと活動しているものの、それはあくまでも犯罪を隠す為のカモフラージュ。
実際は詐欺グループのまとめ役や人身売買の元締めなど、金と地位を守る為なら何でもやるような極悪党だった。
「大物政治家が相手となると、これまで以上に警察は動けない。俺らも慎重に動かなけりゃならない。分かるな?」
「はい」
「伊織、企業での潜入捜査はもう終わりだ。黒幕が分かった以上、これ以上下っ端を探っても無意味だ」
「分かりました」
「雷斗は引き続き情報収集を頼む。榊原の人間関係、屋敷内部、行動パターン、余すこと無く全てを調べ上げて欲しい」
「了解です」
「それじゃあ、引き続き頼む。――と、伊織、少し話がある。いいか?」
「はい」
「それじゃあ、俺は部屋に戻りますね」
忠臣が伊織に話があると言うので、雷斗は早々に部屋へと戻って行く。
残された伊織と向かい合う形で座る忠臣は、何かを考えた後に話始めた。
「伊織、お前は近頃女と一緒に居るようだが……それはあくまでも、任務の為、なのか?」
「……それは……」
「まあ、その様子だと違うんだな。別にお前の交際に口出しする気はない。いい大人だしな。けどな、俺たちは組織の人間だ。それは分かってるよな?」
「勿論」
「守る者が居ると人は強くなれる。だが、時にその存在は足枷になる場合もある。相手に危険が及んだ時、任務を遂行する為には、どんなに大切な者でも見捨てなきゃならない場合もある。その覚悟が、お前には持てるか?」
「…………」
「俺たちは、組織として任務を遂行する。それだけの為に生きる、そう決めたはずだ。遊び程度の恋愛なら口出しはしない。ただな、これ以上深入りする前に、今の彼女と別れた方が……その方が互いの為だと俺は思う。話はそれだけだ」
忠臣は一方的に話を終えると自室へ戻っていってしまい、その背中を見送った伊織は事務所を出て車に乗り込んだ。
忠臣の言葉が、伊織の頭の中を駆け巡る。
「…………やっぱり、そろそろ潮時なのかもしれねぇな」
大切な存在である円香の事を思いながらそう呟いた伊織は、車を走らせマンションへと帰って行った。