愛を教えて、キミ色に染めて【完】
そして円香の方はというと、比較的穏やかな日常を過ごしていた。
縁談を受けた円香は婚約者である颯と会う回数を増やし、最近では休日になる度、二人で過ごすようになる。
ただ、二人きりの時間を過ごすと言ってもあくまでもどこかへ出掛ける程度で、親密度は比較的低めだった。
恋愛慣れしていない円香としてはそれでもだいぶ頑張っている方なのだが颯からすれば、どこかへ出掛けて話をして食事をする、まるで学生のデートのような事だけでは物足りないようで日々不満が募っていたらしく、ついに我慢の限界を迎えた彼はデートの途中で円香にこう言った。
「円香さん、俺たち、そろそろ次のステップに進んでも良い頃だと思わない?」
「……次の、ステップ……ですか?」
「俺たちはもう子供じゃないし、婚約者だよ? いつまでもこんな学生みたいなデートばかりじゃさ、物足りない気がするんだよね」
「……そう、でしょうか?」
颯の言いたい事を何となく理解していた円香だったけれど、それには素直に頷けない。
いくら婚約者と言えど、円香の中には未だ伊織が居る。例え結婚したとしても、伊織を完全に忘れる事など出来るはずはないのだ。
それでも、いつまでも過去に縋る事は出来ないと分かっているから、颯と向き合おうと努力はしているけれど、やはり心の底から好きでも無い男の人とキスをしたり、その先に進む事が、今の円香にはどうしても出来なかった。
「すみません……今はまだ……」
「今は、ね。分かったよ。今は円香さんの意見を尊重するよ」
「ありがとうございます」
「ただし、それはあくまでも結婚するまで。夫婦になれば、拒む事は許されないよ?」
「……分かっています」
「ならいいけどね。さてと、それじゃあ今日はこれから買い物でもしようか」
「はい」
初めは颯の事を気遣いをしてくれる優しい男の人だと思っていた円香だけど、縁談を受けて会う回数を重ねる度、本性が表れていると密かに思う。
颯は円香より一つ歳上なだけなのだが、妙に上から目線なところも気にかかるのだ。
(……何だか、一緒に居るの、疲れるな……)
そんな円香の胸の内など誰も知るよしは無く、江南家の融資のおかげで会社も再び軌道に乗り始めた事を雪城家の人間は皆喜んでいた。
縁談を受けた円香は婚約者である颯と会う回数を増やし、最近では休日になる度、二人で過ごすようになる。
ただ、二人きりの時間を過ごすと言ってもあくまでもどこかへ出掛ける程度で、親密度は比較的低めだった。
恋愛慣れしていない円香としてはそれでもだいぶ頑張っている方なのだが颯からすれば、どこかへ出掛けて話をして食事をする、まるで学生のデートのような事だけでは物足りないようで日々不満が募っていたらしく、ついに我慢の限界を迎えた彼はデートの途中で円香にこう言った。
「円香さん、俺たち、そろそろ次のステップに進んでも良い頃だと思わない?」
「……次の、ステップ……ですか?」
「俺たちはもう子供じゃないし、婚約者だよ? いつまでもこんな学生みたいなデートばかりじゃさ、物足りない気がするんだよね」
「……そう、でしょうか?」
颯の言いたい事を何となく理解していた円香だったけれど、それには素直に頷けない。
いくら婚約者と言えど、円香の中には未だ伊織が居る。例え結婚したとしても、伊織を完全に忘れる事など出来るはずはないのだ。
それでも、いつまでも過去に縋る事は出来ないと分かっているから、颯と向き合おうと努力はしているけれど、やはり心の底から好きでも無い男の人とキスをしたり、その先に進む事が、今の円香にはどうしても出来なかった。
「すみません……今はまだ……」
「今は、ね。分かったよ。今は円香さんの意見を尊重するよ」
「ありがとうございます」
「ただし、それはあくまでも結婚するまで。夫婦になれば、拒む事は許されないよ?」
「……分かっています」
「ならいいけどね。さてと、それじゃあ今日はこれから買い物でもしようか」
「はい」
初めは颯の事を気遣いをしてくれる優しい男の人だと思っていた円香だけど、縁談を受けて会う回数を重ねる度、本性が表れていると密かに思う。
颯は円香より一つ歳上なだけなのだが、妙に上から目線なところも気にかかるのだ。
(……何だか、一緒に居るの、疲れるな……)
そんな円香の胸の内など誰も知るよしは無く、江南家の融資のおかげで会社も再び軌道に乗り始めた事を雪城家の人間は皆喜んでいた。