愛を教えて、キミ色に染めて【完】
 それから更に半月程が経ったある日、江南家に招かれていた円香は予定より少し遅れて到着すると、颯も出掛けていて戻りが少し遅くなるという事で、客間に通されて颯の帰りを待っていた。

 待っている間に御手洗へ向かった円香が再び客間へ戻る途中、ある一室からコソコソと話し声が聞こえてきたので耳を澄ませてみると、その声の中には出掛けているはずの颯のものも混ざっている事に気付く。

 それを不思議に思った円香がこっそり声のする部屋を覗いて見ると、そこには颯の他に、颯の父親で江南家当主、江南 宰三(さいぞう)と、颯の兄で江南家長男、江南 (はじめ)の三人の姿があり、彼らの良からぬ企みを聞いてしまう事になった。

「なあ親父、一体いつになったら式の日取りが決まるんだよ?」
「それがな、雪城の方はもう暫く待って欲しいの一点張りなんだよ」
「はあ?」
「何でもあの娘がイマイチ乗り気じゃないようでな、父親としても、無理矢理挙式を挙げさせるのは本意じゃないらしい」
「はぁ……本当、あの女面倒だよな」
「まあまあ、そんな事言うなよ。籍を入れればこっちのモンだろ? 焦って駄目になったらそれこそ問題だ。多少面倒でも我慢しろよ」
「あのな、兄貴は自分がやる訳じゃねぇからそんな事が言えるんだよ。婚約者だってのに未だにキスすらさせねぇんだぜ、あの女」
「それはなかなか。初心そうな子だし、初めてなんじゃないの?」
「どーだろうな。アイツ、結構良い身体してるし、早くヤリてぇんだよなぁ」
「颯、あまり下品な事ばかり言ってるなよ。とにかく、もう暫くは今のまま耐えてくれ。籍だけでも早めに入れるよう、雪城には頼んでみるさ」
「頼むぜ親父。さっさと籍入れて、雪城の財産を全て頂くために、雪城の人間は排除しねぇとな」

 三人の話は円香にとって衝撃的だった。

 聞いてはいけない話を聞いてしまった円香は物音を立てないようゆっくりその場を後にすると、具合が悪くなったと使用人に告げて逃げるように自宅へ帰って行った。
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