愛を教えて、キミ色に染めて【完】
(どうしよう……飛んでもない話を、聞いちゃった……)

 三人の会話から推測するに江南家は雪城家の財産を狙っていて、雪城家に入り込む為に融資の話をチラつかせ、結婚の話を持ち出したのだと円香は確信した。

(お父様に言わなくちゃ)

 そしてその夜、父親が帰宅するなり円香は昼間江南家で聞いてしまった話をするのだけど、

「何くだらない事を言ってるんだ? 江南家のおかげで、雪城家(うち)は助かっているんだぞ? それに、あちらとしては少しでも早く籍を入れたいと言っているのをお前の我儘で待ってもらっているんだ。感謝すべきだろう?」
「お父様、私は嘘などついていません、本当なんです! 江南家の人たちは、雪城家の財産狙いなんです! 籍を入れて颯さんが婿養子になってしまったら、雪城家はきっと……」
「円香、私は仕事で疲れてるんだ。いい加減にしてくれ」
「お父様……」
「ほら、早く部屋へ戻りなさい」

 円香の話を全く本気にしていない父親は軽くあしらい、部屋から追い出してしまう。

(どうしよう……どうしたらいいの?)

 こうなってしまうと、証拠が無い以上父親に頼る事は不可能に近い。

 頼れる人が誰も居ない状況に、円香は途方に暮れていた。

(……伊織さん……)

 そんな時、ふと頭に浮かんだのは伊織の顔だった。

(でも、もう来るなって言われたし、仮に話が出来ても、関係無いって言われるだけだよね……)

 伊織なら何とかしてくれるかもしれないと思ったものの、あの日の事を思うとそれは無理そうな気がして、すぐに諦めてしまう。

(こうなったら何とか証拠を残して、お父様に信じてもらうしかない)

 考えに考えた末、円香は誰にも頼らず自分の力だけで何とかしようという結論を出したのだけど、江南家は裏で動き始めていて既に円香の手に負える状況ではなくなっていたのだった。

 翌日、再び江南家へ招待された円香は小型の録音機を鞄に忍ばせて颯の元へ向かう。

「昨日は帰ったって聞いて驚いたよ。体調はもう大丈夫なの?」
「はい、すみませんでした」
「良いよ、気にしてない。それよりも、面白いものがあってね。それを見せたくて円香さんを呼んだんだよ」
「面白い、もの?」
「うん。ちょっと待ってね。今流すから」

 そう言って颯は部屋のテレビとプレイヤーの電源を入れると、リモコンで操作をする。

 一体何を見せるつもりなのかと首を傾げる円香はテレビに映ったある映像を目にした瞬間、金縛りにあったかのように身体が固まり、その場から動けなくなってしまう。

 画面に映った映像には、昨日颯たちが話をしている現場を目撃し、その様子をこっそり窺っている自身の姿がしっかり記録されていたのだから。
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