愛を教えて、キミ色に染めて【完】
「ね? 面白いでしょ? 見た瞬間驚いたよ。まさか、キミが話を聞いていたなんてね」
「…………」
「悪いけど、聞かれた以上キミを自由にする訳にはいかない。分かるよね?」
「ど、どうするつもり……なんですか?」
「まあ、本来なら面倒な事にならないよう口封じの為に殺しちゃいたいところだけど、キミにはまだまだ役に立ってもらわなきゃならないから殺しはしない」
「…………それじゃあ、私は……」
「ま、とりあえずキミは今日から俺の管理下で生活をする事になる。常に監視してるから、この事を話した時点でキミの家族は全滅だ。キミも命の保障は無くなる。要するに、俺に従うしか道は残ってないって訳」
「……そんな事になるなら、殺してもらった方がマシです」

 あまりに勝手な言い分に怒りを露にした円香は颯をキッと睨みつける。

「だぁーかぁーらぁ、それは出来ないって言ってんの!」
「っ!」

 円香が反抗的な態度を示したのが気に入らなかった颯は、彼女の顎を強引に持ち上げると、その手に力を入れながら顔を近付ける。

「本当、頭悪ぃ女だなぁ。いいか? お前は俺の言う事さえ聞いてればいいんだよ。余計な事は一切話すな。次そういう反抗的な態度を取るなら、俺にも考えがあるからな。よく覚えておけ!」
「きゃっ!」

 顎から手を離した颯は円香の頬に平手打ちをすると、その弾みで彼女は椅子から落ちて倒れ込んでしまう。

「今日はもう用はねぇから帰れ。間違っても、逃げようとか思うなよ? お前はもう常に監視されてるって事を忘れない事だなぁ」
「…………っ」

 何がおかしいのか楽しそうに笑う颯に円香は怒りしか感じない。

 それでも、何か言おうものなら暴力を振るわれるか、家族が危険に晒されるかもしれないと思うと何も言えなかった。

 悔しさを滲ませた円香は無言で颯の部屋を出ると、涙が流れ出そうになるのを必死に堪えながら江南家の屋敷を後にした。
< 58 / 108 >

この作品をシェア

pagetop