愛を教えて、キミ色に染めて【完】
 それからというもの颯から連絡が来る度、円香は常に怯えていた。

 颯に急かされ、円香は父親にそろそろ籍を入れて一緒になりたいと言わされ、とうとう挙式は二ヶ月後という事で話がついてしまった。

(もう駄目……式が終われば、雪城家は江南家に乗っ取られる……全てが終わってしまう……)

 円香が絶望の淵に立たされている頃、伊織たちは榊原の件で新たな情報を仕入れていた。

「これが、榊原と協力関係にある奴らのリストか」
「はい。まあ、協力関係と言っても、リストに載ってる人間全てが榊原の本性を知ってる訳じゃないみたいで、いつの間にか協力させられてるっていう人間も沢山います」
「だろうな。まあ榊原にとって下っ端は全て駒として使ってるだけなのは容易に想像出来る」
「はい。ただ、この江南家っていうのが結構な曲者みたいなんですよね」

 雷斗はあらゆる手段を駆使して情報を仕入れ、榊原とかなり親密な関係にあるのが江南家だという事を掴んでいた。

 雷斗の話を聞いても、円香が江南家と深く関わっている事を知らない伊織は何となく資料として渡されたリストに目を通していた。

 すると、榊原と関わりのある人物に【雪城】の名前が記されている事に気付いた伊織は小さく反応する。

 勿論、そんな伊織に忠臣も雷斗も気付いていたが敢えて触れはしない。

 ミーティングを終えて忠臣が再び外出して行ったタイミングで雷斗はこう切り出した。

「――伊織、さっき渡したリストに、載ってたろ?」
「ああ、そうだな」
「まだ詳しくは調べていないけど、それなりに関わりがあるかもしれない」
「まぁ、それなら仕方ねぇな」
「載っているのはあくまでも父親だけど、もしかしたら、彼女も関わりがあるかもしれない。そうなったら――」
「関わりがあったとすれば、消す必要のある人間だったとすれば、俺は、円香(アイツ)が相手でも……殺るさ。それが俺らHUNTERの使命だろ?」
「……それは、そうだけど……」
「まあけど、そんな心配はねぇだろうよ。恐らくこの件に関わってるのは父親だけだろ」
「……なるべく早めに、調べるよ」
「ああ、頼む」

 それ以上語らなかった二人だったのだが、それから数日後、榊原の件に雪城家がどれ程関わりがあるのかを調べ上げた雷斗は言葉を失うくらいの衝撃を受けた。

「え…………マジかよ?」

 そして、便利屋の仕事を終えて帰宅した伊織に、

「伊織、大変だ! 雪城家は……江南家と飛んでもない関わりがあった!」
「あ? 何だよ、その飛んでもない関わりって」
「雪城家の長女――つまりは円香ちゃんが、江南家の次男と、近々結婚するんだ」

 その雷斗の言葉で、あの日事務所を訪れた円香が言っていた言葉を思い出した。

“私、結婚をしなきゃいけなくなったんです”

 そう言っていた時に、相手の名を口にしていた事も。
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