愛を教えて、キミ色に染めて【完】
 それからというもの、円香の心境に変化が訪れ、伊織がHUNTERとして出かけて行く時に『行って欲しいくない』と思う事はなくなった。

 不安に思う事はあるが、円香なりに伊織たちの仕事を理解し受け入れ始めたのだ。

 伊織と円香の関係は極めて良好だがHUNTERとしての進捗は、なかなかに厳しい状況だった。

 榊原の件は一向に進展せず、なかなか実行に移す事も出来ずにいる中、当の榊原は違法な取り引きを繰り返し行って懐を肥やしていると知りHUNTERの面々は焦りの色を浮かべていた。

「クソっ! 榊原の奴、好き勝手やりやがって!」

 依然野放しにされたままの榊原はまたしても大きな事件を引き起こすのだが、世間的には犯人は公にされず、榊原本人は相も変わらずにこやかな表情でメディアに出ては、調子の良い言葉を並べている。

 その事に酷く胸を痛めるHUNTERの面々を間近で見ている円香もまた、何も手伝える事のない役立たずな自分に嫌気が差していた。

 何もかもが上手くいかずピリピリとした空気が漂う中、伊織たちを揺るがす出来事は起きてしまう。

 それは、円香の元に電話がかかって来た一本の電話が始まりだった。

「もしもし……」
「円香、元気でやっているのか?」

 相手は円香の父親で、もう何ヶ月も会えていない娘を心配して電話を掛けてきたのだ。

「お父様、はい。お父様たちこそ、お元気ですか?」
「ああ、私や母さんも元気でやっている」
「そうですか、それなら良かったです」
「円香、その……江南家との結婚の件では、本当に済まなかった。警察から江南の人間が雪城の財産狙いだという事を聞いたよ。円香の言っていた通りだったな」
「いえ、いいんです。証拠もないのにいきなりそのような事を言われても、信じられなかったのは仕方がないと思いますから」
「円香……ありがとう。何か困った事があれば、何でも言ってくれて構わないからな」
「はい」

 数ヶ月ぶりに父親と話をした円香は初めこそ緊張していたものの、やはり実の親との会話はどこか安心出来るものがあるのか少しだけ元気が出た気がした。

 しかし、この電話が原因で円香たちの日常は一変する。

 父親と電話をしてから数日が経ったある日、円香のスマホに知らない番号からの電話がかかってきて、初めは出なかった円香だったけれど何度もかかってくる事もあって気になってしまいつい電話に出てしまう。

 すると、

「円香! 助けてくれ!」
「え……お父様?」

 電話に出ると、何やら悲痛な声で助けを求める父親の声が聞こえてきて円香は困惑してしまう。

「どうかなさったんですか? お父様?」
「……、…………、……」

 円香がそう問いかけるも、電波が悪いのか相手の声も音も良く聞こえてこない。

 そして、そのまま電話は切れてしまった。
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