愛を教えて、キミ色に染めて【完】
久しぶりに事務所へ戻ってきた円香は一人、伊織の部屋で眠りにつき、始めはなかなか寝付けなかった彼女も流石に疲れが出ていたのか、一時間も経たないうちに夢の中へと堕ちていく。
せめて、夢の中だけでも名前を呼んで欲しいし笑いかけて欲しいのに、それすらも叶わず何度か眠りから覚めては、伊織の事を思って涙を流していた。
朝になり、再び病院へ戻って来た円香は、いつもと変わらず伊織の病室で一日を過ごす。
答えてくれないと分かっていても、もしかしたら反応があるかもしれないと、天気の事や今の自分の思いを問い掛けるように話したりする。
「伊織さん、今日も良いお天気ですよ。こういう日は、お弁当を持って、どこかにお出かけしたいですね。私たち、デートらしい事はしていませんでしたから……どこか、一緒に行きたいです…………だから早く、目を覚ましてください。目を覚まして、私の事を抱きしめてください……伊織さんに、名前を呼んで欲しいです……」
暗くならないと決めたのに、反応の無い彼を前にするとどうにも弱気になってしまう。
握り返してくれない彼の手にそっと自身の手を重ねた円香は、彼の微かな温もりを感じながら目を閉じた。
依然として意識を取り戻さない伊織は深い暗闇の中に居た。
(俺は、死んだのか?)
何も見えない暗闇の中、撃たれた記憶が頭の中に残っている伊織は自分が死んでしまったのでは無いかと思っていた。
(まあ、HUNTERに属した時から、こんなのは覚悟の上だ……多くの人間を手に掛けて来た者の末路なんて、こんなものだろうな……)
日々死と隣合せな境遇に身を置いていた伊織は、死ぬという事に恐怖など無かった。
多くの人間を殺めて来た自分が真っ当な未来を歩めるはずもないと理解していたから、それも仕方の無い事だと諦めもついていた。
しかし、それは円香と出逢うまでの考えだった。
“伊織さん”
暗闇の中、突如聞こえて来た円香の声に伊織は反応する。
「円香?」
愛しい人が、自分の名前を呼んでいる。
“伊織さん……お願い、私を一人にしないで……”
“もう一度、名前を呼んで……抱きしめて……”
愛しい人が、自分を求めている。
今すぐ彼女の名前を呼んで、抱きしめてやりたい。
大好きな人の傍に、ずっと居たい。
そんな感情が伊織の心を支配する。
(確かに、俺は死んで当然の人間かもしれない……けど、今はまだ、アイツの……円香の傍に、居たい……)
伊織ははっきりと気付いてしまう。死への恐怖なんて無いと思っていた自分が、死を恐れている事に。
今はまだ、死ねないという事に。
(円香……俺はまだ、生きていたい。生きてお前と――)
そう強く願った次の瞬間、伊織を包んでいた暗闇に一筋の光が差し込み、彼はその眩しさに目を閉じた。
せめて、夢の中だけでも名前を呼んで欲しいし笑いかけて欲しいのに、それすらも叶わず何度か眠りから覚めては、伊織の事を思って涙を流していた。
朝になり、再び病院へ戻って来た円香は、いつもと変わらず伊織の病室で一日を過ごす。
答えてくれないと分かっていても、もしかしたら反応があるかもしれないと、天気の事や今の自分の思いを問い掛けるように話したりする。
「伊織さん、今日も良いお天気ですよ。こういう日は、お弁当を持って、どこかにお出かけしたいですね。私たち、デートらしい事はしていませんでしたから……どこか、一緒に行きたいです…………だから早く、目を覚ましてください。目を覚まして、私の事を抱きしめてください……伊織さんに、名前を呼んで欲しいです……」
暗くならないと決めたのに、反応の無い彼を前にするとどうにも弱気になってしまう。
握り返してくれない彼の手にそっと自身の手を重ねた円香は、彼の微かな温もりを感じながら目を閉じた。
依然として意識を取り戻さない伊織は深い暗闇の中に居た。
(俺は、死んだのか?)
何も見えない暗闇の中、撃たれた記憶が頭の中に残っている伊織は自分が死んでしまったのでは無いかと思っていた。
(まあ、HUNTERに属した時から、こんなのは覚悟の上だ……多くの人間を手に掛けて来た者の末路なんて、こんなものだろうな……)
日々死と隣合せな境遇に身を置いていた伊織は、死ぬという事に恐怖など無かった。
多くの人間を殺めて来た自分が真っ当な未来を歩めるはずもないと理解していたから、それも仕方の無い事だと諦めもついていた。
しかし、それは円香と出逢うまでの考えだった。
“伊織さん”
暗闇の中、突如聞こえて来た円香の声に伊織は反応する。
「円香?」
愛しい人が、自分の名前を呼んでいる。
“伊織さん……お願い、私を一人にしないで……”
“もう一度、名前を呼んで……抱きしめて……”
愛しい人が、自分を求めている。
今すぐ彼女の名前を呼んで、抱きしめてやりたい。
大好きな人の傍に、ずっと居たい。
そんな感情が伊織の心を支配する。
(確かに、俺は死んで当然の人間かもしれない……けど、今はまだ、アイツの……円香の傍に、居たい……)
伊織ははっきりと気付いてしまう。死への恐怖なんて無いと思っていた自分が、死を恐れている事に。
今はまだ、死ねないという事に。
(円香……俺はまだ、生きていたい。生きてお前と――)
そう強く願った次の瞬間、伊織を包んでいた暗闇に一筋の光が差し込み、彼はその眩しさに目を閉じた。