愛を教えて、キミ色に染めて【完】
 伊織が目を覚ましてから数日が過ぎたある日、テレビのニュースで榊原がこれまでに行ってきた悪行の数々が公となり、それに関わっていた全ての人間たちが次々と逮捕されるという前代未聞の事態が起こり、世間を騒がせていた。

 円香の父も疑いを掛けられたものの、関わっていたというより巻き込まれていただけなので罪に問われる事は無かった。

「あの時、伊織を撃ったのは榊原を慕う秘書の男だったが、奴らも全員逮捕された」
「そうですか。まあ、別に誰にやられたとか、今はどうでもいいっすよ」
「そうか。そういえば、来月には退院出来るんだって?」
「はい。まあ、退院しても暫くは安静ってのが条件なんすけどね」
「お前にはいつも大変な役回りを押し付けてるからな、こういう時くらいゆっくり休んどけ」
「いや、俺としては自ら選んでやってるんで、大変に思った事はないですよ」
「そりゃHUNTERとしては頼もしい限りだな」
「痛みも引いてきてるし、早めに仕事復帰したいっすよ」
「けどなぁ、それは彼女が許さないと思うぞ?」

 伊織は身体を起こして忠臣と会話をしていると、

「伊織さん! まだ起き上がっちゃ駄目ですよ! 寝てなきゃ治りませんよ?」

 見舞いで貰った花を花瓶に生けて病室へと戻って来た円香は身体を起こしている伊織を見るなり叱りつける。

「これくらい平気だって……」
「駄目です! 無理して傷が開いたらどうするんですか? 言う事聞いてください!」
「……分かったよ」

 円香の気迫に押されて渋々ながらも伊織は布団に潜り込むと、その姿を見た円香は満足そうな表情を浮かべていた。

「あっははは、早速尻に敷かれてるなぁ、伊織は」
「いや、笑いごとじゃないんすけど……」
「まあもう暫くゆっくりしてるんだな。円香さん、後は頼むよ」
「はい、任せてください」

 二人のやり取りを微笑ましく思いながら、忠臣は円香に伊織を任せて帰って行った。
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