愛を教えて、キミ色に染めて【完】
 少しの沈黙の後、

「うむ……伏見くん程の好青年になら安心して円香を任せられるから二人の結婚に反対という事はないんだが、それに当たって一つ問題がなぁ」
「……と、言いますと?」
雪城家(うち)は子供が円香しかいない。しかし、私としては自分の子供に雪城の名を継いで欲しいという思いがある。出来れば私の会社もだ。そうなると伏見くん、君には雪城の姓に入って貰わなければならないんだよ」

 そう、伊織もその事を考えていなかった訳では無い。

 伊織としては、伏見の姓を捨てて雪城の姓を名乗る事は大した問題ではないのだが、これまで自分を育ててくれた忠臣の事、HUNTERの今後、それに、万が一に自分が雪城の姓を名乗り継いでいく事を踏まえると、やはり殺し屋の自分が名家の姓を名乗りながら暮らしていく事には少なからず抵抗があるのだ。

「お父様、もし、それが出来なければ、私は伊織さんと一緒になる事は許されないのですか?」
「……いや、まあ、それが絶対という訳ではない。あくまでも、私の希望だよ。まあ私には弟もいるから、伏見くんがどうしても無理だというのなら雪城の姓や会社は弟に継いで貰う事も視野に入れるから問題はないが……どうかね、その事を少し考えてみてはくれんかね?」
「…………分かりました」

 結局、結婚の許しは貰えたものの伊織が雪城の姓を名乗る事になるかどうかという問題についてはすぐに答えが出せる事ではないので一旦保留となり、この日は解散する事になった。


「そうか、やはり、そういう話になったのか」
「あーそれはまた、なんて言うか……複雑な問題だよね」

 帰宅後、伊織は円香の両親に挨拶をした事、結婚の許しを得る為に交わした会話を忠臣や雷斗に話し、どうすべきかを相談をした。
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