《短編集》愛しの旦那様は今日も私を溺愛する
 暫くして、

「お、神楽がママに絵本読んであげてるのか?」

 二階で布団を干し終えた百瀬くんが一階のリビングへ顔を出すと、

「ママと赤ちゃんにだよ!」

 百瀬くんの言葉の中に『赤ちゃん』が入っていなかった事が気になったらしい神楽はそう訂正していた。

「そっか、そうだよな。しかし神楽は本当に良いお兄ちゃんだな」
「ほんと? オレ、いいお兄ちゃん?」
「そうだよ。お腹の中で、赤ちゃんも凄く喜んでるよ」
「えへへ。オレね、赤ちゃんとたくさんあそぶんだ! オモチャだって、たくさんかしてあげる!」
「偉いな。パパもママも、神楽が居てくれたら安心だよ。ね、亜夢?」
「うん、本当だね」

 元からしっかりしていた神楽だけど、弟か妹が出来ると分かってからは、以前にも増してしっかりするようになった。

 勿論、それには私も百瀬くんも助かってはいるのだけど、三人で過ごせるのは赤ちゃんが生まれてくるまでの期間だけ。

 四人になってからの生活も楽しみではあるけれど、三人の時間も大切だから今しか出来ない事をしてあげたいと思っていたりする。

(今はまだ、神楽にも沢山甘えて来て欲しい……なんて、わがままなのかな?)

『お兄ちゃん』という言葉が嬉しいのと、周りのお友達がお母さんにあまりベタベタしていない事を知ったからか、最近はそこまで甘えてくれなくなっている神楽に少し淋しさを感じていた私は頻繁にそんな事を考えていた。
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