《短編集》愛しの旦那様は今日も私を溺愛する
「……亜夢」
「……百瀬くん?」
「こんなところで寝てたら風邪ひくよ? 俺ももう寝るし一緒に寝室に行こう?」

 百瀬くんの電話が終わるのを待っていたはずがいつの間にか眠ってしまったようで、起こされた私は目を擦りながらふと時計に目をやると、あれから一時間近くが過ぎていた。

「百瀬くん、電話は、もう大丈夫なの?」
「ん? ああ、うん。仕事のトラブルでね。とりあえず片付いたから心配無いよ」
「……そう、なんだ」

 仕事のトラブル――百瀬くんが言うのだからそうなんだと思う。

 でも、こんな時間に電話なんてしてくるのだろうか? それに、一時間近くも。

 だけど、仕事の事は分からないし、緊急な事もあるかもしれない。

 いつもなら、きっとそれで納得していたと思う。

 なのに今はどうしても疑ってしまう。

 それはきっと、今日百瀬くんが貰ってきた手作りのお菓子が関係しているのかもしれない。

(……気にし過ぎ……かな?)

 心のモヤモヤは更に増えていき、何だかキリキリと胃の辺りも痛くなる。

「亜夢、どうかした?」
「え?」
「どこか痛むの?」
「ううん、大丈夫……」
「それならいいけど、何かあったらすぐに言ってよ?」
「うん、ありがとう」

 結局百瀬くんに聞けないまま、私は彼と共に寝室へ向かいベッドに横になった。

「おやすみ、亜夢」
「うん、おやすみ……百瀬くん」

 寝る前に交わす挨拶に、触れるだけの軽いキス。

 これはいつもと変わらない。

 だけど、私は密かに気にしている事がいくつかあった。

 一つはママ友たちから聞いた話。

 妊娠中は旦那の浮気に気を付けなきゃという事だ。

 そしてもう一つ、妊娠中だから仕方が無い事だけど、このところ体調に波もあって家事が思うように出来ず横になってばかりの日も少なく無かった。

 その度、百瀬くんは私を気遣って、仕事終わりで疲れているのに家事や神楽の事をやってくれて助かってるけど、百瀬くんは疲れているのでは無いか、家に居たら休まらないのでは無いかと。

 それに、触れ合いだって、最近はご無沙汰だ。

 家に居ても癒やされない、私が癒やしてあげる事も出来ない。

 もしかしたら、癒やしを求めて他の女の人と――

(……そんな訳、無いよね。百瀬くんはそんな事、しないよね?)

 疲れているのかすぐに寝息が聞こえて来て、ぐっすり眠る百瀬くんの横顔を眺めながら、「百瀬くん、信じてる」と呟いた私はゆっくり目を閉じた。
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