《短編集》愛しの旦那様は今日も私を溺愛する
 翌日、神楽は百瀬くんと荒木田家へ向かったので、私は早速チョコ作りとケーキ作りに取り掛かる事にした。

 チョコは二種類。

 神楽用のキャラクターの形をした甘いミルクチョコレートと、百瀬くん用の洋酒入り生チョコレート。

 ケーキは神楽も百瀬くんも大好きな苺のショートケーキを作る事にした。

 お菓子作りは少し久しぶりだけど、気分転換には丁度良くて楽しんで出来た。

 だけど、昨夜の手作りお菓子の事がずっと頭の片隅にあってモヤモヤは無くならなかった。

 お昼を迎え、少し遅めの昼食を一人でとる。

 ふと、行く間際まで「やっぱりママと一緒がいい」と駄々をこねていた事もあって神楽の事が気がかりだったけど、百瀬くんやお義母さんからメッセージが届いたおかげで神楽が楽しんでいる事を知ってひと安心。

 二人が帰るまでに片付けまで終えたい私は再び作業を再開した。

 そして夕方、丁度片付けを終えたタイミングでインターホンが鳴り響く。

 出てみるとカメラにはお義父さんの姿が映っていたので、急いで玄関へ向かってドアを開けた。

「ママ! ただいま!」
「お帰り神楽。あの、百瀬くんは?」

 勢いよく抱き着いて来た神楽を抱き上げた私はお義父さんに百瀬くんの事を尋ねると、

「ああ、何でも急用があると昼過ぎに出掛けて行ってね、夜まで掛かりそうだから神楽を送ってほしいと頼まれたんだよ」

 急用が出来たと百瀬くんは神楽を一人で実家に残して出掛け、まだ暫く戻れそうに無いからとお義父さんに神楽を送るよう頼んだという。

「そ、そうだったんですね。わざわざすみませんでした、ありがとうございます。あの、上がっていきますか?」
「いや、母さんに買い物を頼まれているからすぐに失礼するよ。それじゃあ、また」
「あ、はい、お気をつけて」

 神楽を送ってくれたお義父さんは帰っていき、私は神楽と共に部屋へ入った。

(百瀬くん……急用って、何? 神楽を置いてまで行かなきゃいけないところなの? 一言くらい、伝えておいてくれたら良かったのに……)

 百瀬くんへの不信感が募る中、それを表情に出さないよう必死に平静を保ちながら神楽と一緒に百瀬くんの帰りを待っていた。
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