《短編集》愛しの旦那様は今日も私を溺愛する
 そして、夕御飯を食べてお風呂を済ませた頃、ようやく百瀬くんが帰ってきた。

「ただいま」
「パパ、おかえりー!」
「おかえりなさい、百瀬くん。お夕飯は?」
「あー、とりあえず先にお風呂入ってくるよ」
「……うん、分かった」

 百瀬くんの返答で、彼がご飯を済ませて来た事は分かったけれど、今日はバレンタインで二人の好きなご飯をとハンバーグを作ったので、匂いで分かったのか百瀬くんは『食べて来た』とは言わなかった。

 だから私も気付かないフリをして頷き、いつもより量を少なめにご飯を出す事にした。

 お風呂から上がってご飯を『美味しい』と食べてくれる百瀬くん。

 いつもならば素直に喜べるのに、今は顔が引き攣ってしまいそうで上手く笑顔を作れない。

 百瀬くんは何を隠しているのか、それが知りたいけど、神楽が居る前で聞くわけにもいかないのでモヤモヤを抱えたままで百瀬くんがご飯を食べ終えるのを待っていた。

「ねぇ、ママ」
「何?」
「ママがくれたチョコ、もっと食べたい!」

 神楽が帰宅してすぐ、作ったチョコを渡していて、夕御飯の前だからと一つだけ食べさせたのだけど、もう少し食べたいとせがんでくる。

 だけど、ケーキもあって、デザートにはケーキを出したかった私はそれを口にするのを躊躇っていた。

(百瀬くん、絶対お腹いっぱいだよね……ケーキ、明日にしようかな……)

 今日は神楽にチョコを食べさせて、ケーキは明日のおやつの時間に出そうかなと悩んでいると、

「二人共、ちょっといい?」

 ちょうどご飯を食べ終えた百瀬くんが私と神楽に声を掛けてきた。

「なーに?」

 百瀬くんの問いに無邪気な笑顔を浮かべながら返す神楽を抱き上げて膝の上に座らせた私もまた、彼に視線を移した。

「……どうしたの?」

 ドキドキと鼓動が速まる中、私も百瀬くんに問い掛けると、

「急なんだけど、明日、ある場所に行こうと思う」

 百瀬くんの口から思いもよらぬ言葉が出て来て思わず固まった。

「……え?」
「あるばしょ? どこ?」
「それは明日のお楽しみ。それと、明日はそのままそこで泊まるから、そのつもりでね」
「おとまり!」
「え? で、でも、明日泊まったら月曜日の幼稚園が……」
「一日くらい平気だよ。本当は今日明日で行ければ良かったんだけど、どうしても都合つかなくてさ……」
「……あの、百瀬くん、その事なんだけど……」

 話の流れで何があったのか聞けるかと思って発言してみたのだけど、

「神楽が寝たら、話すから」

 私にだけ聞こえるよう小声で言った百瀬くんのその言葉によって、それ以上この場で追求する事はしなかった。
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