《短編集》愛しの旦那様は今日も私を溺愛する
 神楽の居るところでは出来ない話なのかと不安に思っているさなか、

「亜夢、デザートあるんだよね? さっき冷蔵庫開けた時、見えちゃった」

 唐突にそう口にした百瀬くん。

「デザート? チョコじゃないやつ?」

 そんな百瀬くんの言葉を聞いた神楽は瞳を輝かせながらその存在が何なのかを聞いてくる。

「う、うん……あるにはあるけど……百瀬くん、お腹いっぱいなんじゃないの?」
「そんな事無いよ? 亜夢が作った物ならいくらでも食べれるし」

 そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、正直無理はして欲しくない。

 でも、デザートの存在を知った神楽は今か今かと待っているので出さない訳にもいかず、冷蔵庫に向かった私は作ったショートケーキを取り出して二人の前に差し出した。

「イチゴのやつ! わーい! ママが作ったの?」
「うん、そうだよ。今日はバレンタインだからね。ママは神楽とパパの事が大好きだから、二人の好きなケーキも作っちゃった」
「バレンタイン! すきな人におかしをあげる日ってきいた! でも、ケーキ、一つしかない……」
「流石にこの大きさを神楽一人で食べるのは無理だろ? これはパパと分けような」
「うん……」

 チョコは神楽用と百瀬くん用に分けてあるけど、流石にケーキまでは分けなかった。

 でも、神楽はケーキも自分用とパパ用の二つがあると思っていたみたいで少し残念がっていた。

(ホールケーキじゃなくて、小さいのを二つ作った方が良かったみたい……来年はそうしよう)

 そう反省しながら二人分に分けようとしていると、

「亜夢の分も切り分けなよ。三人で食べよう、ね?」

 百瀬くんが私も一緒にと言ってくれたので、

「それじゃあ、私は少しだけ貰うね」

 二人よりも少なめに自分の分を切ってから百瀬くんと神楽の分は均等になるように切り分けた。

 そして、飾りで乗せていたチョコのプレートを半分に割ろうとすると、

「そのチョコはオレとパパのどっちかがもらえるやつ! ジャンケンでかったほうね!」

 何故か半分に分けるのでは無く、どちらかが貰える物として、ジャンケン勝負を百瀬くんに挑んだ神楽。

 最近、幼稚園でお友達とオモチャの取り合いになると、ジャンケン勝負をして先に使う順番を決めるのが流行っていると聞いていたけど、まさかこんな場面でそれを持ち出すとは思わなかったし、そんな事をしなくても百瀬くんなら神楽に譲りそうだけど、神楽の気持ちを汲んでの事なのか、

「いいぞ、それじゃあ、ジャンケンで勝った方が貰えるって事にしような」

 百瀬くんは神楽の挑戦を受けた。
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