《短編集》愛しの旦那様は今日も私を溺愛する
(……神楽が負けたらどうするんだろ? 何回勝負にしても、こればかりは運だよね……)

 神楽が勝てれば一番いいけど、話を聞いていると神楽はジャンケンがあまり得意じゃないみたいで負ける事が多いと言っていた。

 百瀬くん的にも自分が勝つより神楽に勝たせてあげたいと思っているだろうと思いながらジャンケン勝負の行方を静かに見守った。

「それじゃあいくよ! じゃんけん――」

 どちらが勝つのか、ハラハラしながら二人の手元を見てみると、百瀬くんはチョキ、神楽はグーの手を出していて、勝負は神楽の勝ちとなった。

「やったぁ! オレのかち! チョコはオレの!」
「神楽は強いなぁ、チョコ貰えなくて残念だよ」

 じゃんけんに勝った神楽が大喜びの中、百瀬くんは負けた事を残念がりながらも神楽の勝ちを喜んでいた。

 後でコソッと聞いた話だけど、神楽はよく、じゃんけんでは初めにグーを出す事が多いらしく、今回もグーを出すと読んでチョキを出したのだと百瀬くんは言っていた。もし自分が勝った時は、チョコを半分にする気だったという話も聞けて、流石は百瀬くんだと感心した。

 三人でケーキを食べながら穏やかな時間を過ごし、神楽が眠くなった事で寝かし付けをした私は、百瀬くんの元へ戻ってきた。

「明日は早く出掛けるし、今日はもう寝ようか」

 ケーキのお皿やコーヒーカップを片付けてくれていた百瀬くんの言葉に頷いた私は彼と共にリビングを後にして、寝る支度を整えた私たちはそれぞれベッドに入った。

 そして、どのタイミングで今日の事を聞くべきか迷っていると、

「亜夢、おいで」

 手招きしながら呼び寄せてくれた百瀬くんに頷いた私は彼に腕枕をしてもらいながら話を切り出そうと口を開いた。

「百瀬くん、今日は一体、どこに行ってたの?」
「取り引き先の社長の自宅」
「そうなの? でも、何でわざわざ自宅に?」
「実は、明日出掛けるところは、今話題になってるファンタジーランドで、泊まるところは特別チケットを持ってないと宿泊出来ないホテルなんだよ」
「え? あの、少し前に出来たばかりの?」
「そう。亜夢も神楽も、行きたがってたでしょ?」

 数カ月前に新しく出来たパーク内にあるホテルで、宿泊するには特別なチケットを持っていないといけないのだけど、そのチケットは抽選で、私も百瀬くんも応募してはみたものの見事に外れてしまったのだ。

 当選した人の名前で自動的に予約されるらしいのだけど、万が一他の人にチケットを譲った場合、当選した本人からホテル側に連絡があれば別の人が泊まれるという事で、SNSでは譲ってくれる人を探す投稿も多く見られるものの日時や人数が決まっているから探すのも大変だと聞いていたのだけど、

「でも、それと取り引き先の社長さんと何の関係が?」

 それがここ最近の百瀬くんの行動に繋がっているらしいと気付いた私はそう質問をして続きを聞く事にした。
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