トナカイとメリークリスマス



「そろそろいい?」
 彼は、ネックレスを手に取る。
「はい、クリスマスプレゼント」
 そう言って、着けてくれた。
「……ありがとう」
 首元を飾ったそれは、箱に入ってた時よりも映えて見えた。
「綺麗……」
「気に入ってもらえたなら良かった」
 満足そうに彼が笑う。
 私も嬉しい。

 と、もらってばかりじゃいられない。
「ちょっと待ってて」
 私は、通勤用のカバンの底から箱を取り出して、彼のところに戻った。
 これも手の平に収まる小さな箱。
「私も。クリスマスプレゼント」
 両手の上に乗せて、恭しく出してみる。
「え……」
 彼はそう声をもらして固まった。なんで?
「もしかして迷惑……?」
「ち、違うよ!」
 慌てて否定する。
「そんなことある訳ないよ!ちょっとびっくりしただけで、迷惑だなんて絶対ないから!」
 あせるトナカイってなかなか見られないなあ、と思っていたら、また抱きしめられた。
「忙しかったのに、僕のために時間割いてくれて、ありがとう」
「そんな大げさじゃないよ」
 実は、探し始めて1ヶ月かかったんだけど。
 気に入る物が、なかなか見つからなくて。
「お互い様でしょ?」
「でもさ、嬉しい」
 彼がへへ、と笑う。この照れ笑いも可愛い。
「中、見てもいい?」
「もちろん」
 彼は丁寧に包装紙をはがして、箱を開けた。
「あっキーケース」
 革製の。名前も入れてもらった。
「……あれ?なにこれ」
 キーケースには、鍵が一つ。
「もしかして、これ」
 彼が私の顔を見る。
 私は、照れ臭くて目をそらした。
「あの……ここの……です……」
 うわ。顔がほてってきた。どうしよう。
 そして、彼の反応がない。
 恐る恐る見てみると、ぽかんと口を開けて、固まっていた。
「……あの、迷惑、だったら、鍵は返してもらっても……」
 そう言ったら、彼の目に光が戻ってきた。
「嫌だ」
「へ?」
「返してって言われても返さない」
 一気に子どもみたいな顔になった。
「これを返すのは、引っ越す時だから。僕と一緒に住む時」
「は……?」
「もう引っ越してもいいよ。僕はいつでも」
 いやいやいや。
「まだ付き合い始めたばっかりなのにそんな」
「今からでも」
 彼は目をキラキラさせている。そのキラキラには耐えられない。
「わかった。わかったから」
「えっいいの?引っ越しする?」
「いやそうじゃなくて」
「いいよ、ウチに来なよ。部屋あるし、会社も近いし、セキュリティもばっちり。僕も安心」
「違うから。まだ一緒には住まない」
「ってことは、いずれ一緒に住んでもいいってことだよね」
 言葉に詰まった。
 一緒に住むって気軽に言うけど。
「簡単に言ってないよ。もちろん、将来のことも考えてる」
 まるで私の心が読めるように、彼は言う。
「だから、安心して、僕のところに来ていいよ」
 その言葉が嬉しくない人がいるんだろうか。
 私は笑顔で頷いた。
「その時は、よろしくお願いします」
 彼も笑って、そして、顔が段々近づいてきてーーー。


 ……ぐうううう。

「やっぱりご飯が先でしょ」
「……途中で腹鳴ったら気分ぶち壊しだしなあ。仕方ない、食べよう」
 また笑えてしまう。
 仕事中のクールな彼からは、とても想像できない。
「デザートはベッドで」
 軽くほっぺたにキスをされた。
 もう参った。
 赤くなった顔をごまかしたくて、彼の手から赤いスポンジを取ってつけてみた。
 彼が笑って、ツノカチューシャを私に着ける。
「可愛い」
「そう?」
「うん。早くご飯食べよう。もう襲いたい」
「ちょっと……ムードもなにもないなあ」
「いいから、早く」
 結構な力でぐいぐい引っ張られて。

 その後、食事を終えた瞬間から、彼に食べられてしまったのだった……。




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