背伸びして、君とありったけのキスがしたい。
「(でも、そんなのって……)」
思い描いていた『恋』というものが、ガタガタを音を立てて崩れていく。
無意識に溢れ出てくる涙を、雑に袖で拭い取った。
「(あぁ、私……もう、恋なんて)」
“もう、恋なんてしたくない”
心の中に浮かび上がってきた言葉を口にしようとしたとき。
「──……ちょっとごめんね」
「え?……って、きゃっ!」
力の入らない私の体が、ふわりと宙に浮いた。
それが彼に抱きかかえられたせいなのだと理解したときには、この騒がしい室内を抜けて、VIPルームと書かれた部屋に連れてこられていた。
少し前までいた場所とは打って変わって、ここは物音ひとつしないシンッと静まり返った部屋だった。
見ただけで分かる高級そうな本革の大きなソファと、それに似合ったガラステーブル。
その上にはきれいな花束と、名前の分からないお酒が数本置かれている。
「ここは?」
「ただの個室だよ。ここなら俺以外、誰にも見られないから好きなだけ泣けばいいよ」
「……っ」
「それとも、心の優しいオニーサンが話聞いてあげようか?」