背伸びして、君とありったけのキスがしたい。






そう言って悪戯っぽく笑う彼をはじめて正面から見たとき、心臓が大きく跳ね上がった。


彼を見て素直に思い浮かんだ言葉は、『格好いい』と『大人の男の人』だった。


それから──……とても夜が似合う人だとも思った。





「じゃあまずは自己紹介から始めよっか。キミ、名前は?」


「……中畑、里緒です」


「里緒ちゃんね。俺は高瀬綾人っていいます」



名前を名乗りながらスッと差し出されたのは、一枚の名刺だった。


高級感のある光沢紙には『Night A(ナイトエース)株式会社 代表取締役 高瀬綾人』と書かれている。




「あの、これって」


「受け取っておきなよ。いつか、これが里緒ちゃんを守ってくれるかもしれないしね」


「守る?」


「まぁ、お守り代わりに財布の中にでも入れておいてよってことかな」




綾人さんに勧められるがままそれを受け取ると、彼は「よくできました」と言ってニッコリと笑いながら頭を撫でてくれた。


耳に馴染む優しい声と、私に触れるあたたかい手。


今の私にはそんな優しさや安心感がいつも以上に身に沁みて、余計に涙を誘ってくるから困った。





「何が悲しくてそんなに泣いてんの?他人に話せば少しはラクになるかもよ?」


「……なんでも、ない、です」


「ハハッ。なんでもない女の子が年齢を偽ってまでこんなところに来るの?」


「な、なんでそれを……っ!?」





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