背伸びして、君とありったけのキスがしたい。
綾人さんのその一言に、思わず顔をあげて反応してしまった。
名前を言っただけで、どうしてバレてしまったんだろう。
「アッハハ!この界隈で俺に嘘は通用しないよ、里緒ちゃん」
「……」
「だからさ、正直になって俺に話してみなって」
だって、もう思い出したくなかった。
橋本くんとお付き合いができて、本当に嬉しかった。
これから楽しいことが待っていると本気で信じていた。
それ、なのに──。
「恋って、楽しいだけじゃ……ないんだなって、知ったんです」
一つ言葉を紡いでいくと、もう止まらない。
悲しかったこと、悔しかったこと、苦しかったこと。
全部、目の前にいる綾人さんに吐き出した。
あれだけ泣いたのに、それでもまだ枯れることを知らない涙が幾度となくこぼれ落ちてくる。